ささくれ

@ns_ky_20151225

ささくれ

「めっちゃ痛い。ひりひりする」

「なにが?」

「ささくれ」

「パンダ?」

「いや別に笹はいらんねん。どう言うたら……、ああ、さかむけ」

「あっちでも体に気ぃつけてがんばりや」

「はなむけのお言葉ありがとな、泣きそや。でもちゃうねん」

「武士道とは……」

「葉隠でもない。それに痛いけど死ぬほどちゃうよ」

「病魔退散!」

「アマビエは効かんやろね。ささくれには」

「もうええか? これで義務は果たしましたよ、と……、ちょっと見して。うわぁ、ほんまに痛そ。そのあま皮切ったらどや」

「僕のは余ってない」

「さよか、大人やったら我慢し」

「まあ腕の一本や二本ならええけど、こういうのんの方がかえって辛抱でけんもんや」

「びりびりする?」

「ひりひりな」

「ひり゛ひり゛?」

「無理せんでええよ。すごい顔してご苦労さんやけど」

「なんでそんなんなったん?」

「よう分からんけどここ二、三日からからやったからな、肌が乾燥したんやろ」

「から゛から゛?」

「その顔はもういらん」

「とにかくリバテープでも貼っとき」

「リバテープ?」

「あー……、じゃ、サビオ」

「サビオ?」

「カットバンかな」

「カットバン?」

「キズバンはどや」

「キズバン?」

「バンドエイド!」

「バンドエイド?」

「それも分からんのかいな。ほな絆創膏」

「ああ絆創膏か。そうするわ」

「なんや商品名全滅か。某放送局みたいなやっちゃな。軟膏も塗っときや」

「太平記か」

「これは難しいぞ。軟膏で太平記と来たか。えー……、楠公か! えらい飛んだな」

「分かってくれてうれしい。ま、言うとおりするわ。絆創膏貼って軟膏塗んねんな」

「それでもええよ。ちょっとは浸みこむやろし」

「氷みたいな目ぇして。怖いよ」

「誰がこんな目ぇにした思てんねん。ささくれでどんだけ引っぱるんや。よっしゃ、もう二度とささくれにならんおまじない教えたろ」

「そんなんあんのか。教えてちょうだい」

「手ぇ出すな。あのな、業平知ってるか」

「ああ、お粥さん炊く」

「それは行平! 弟の方の歌!」

「大きい声出しなさんな。いくらなんでも知ってるで、『ちはやぶる神代もきかず竜田川……』やろ」

「それや。続けてみ」

「『からくれなゐに水くくるとは』 どや、ちゃんとできたやろ」

「なんでそこだけ真面目やねん。『ささくれ無い』といかんかい」

「あっ、しもた。ささくれだけにツメでしくじった」


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