ヴァイオレット

"・・・パチ"


 重たい瞼を開くと、視界一杯に木目の天井が映った。


(・・・どこ?)


 確か・・・、国を滅ぼして・・・、それから・・・。


"ガバッ"


 起きたことを理解し、慌てて体を起こす。


「・・・っ!!!」


 切った・・・はずの首に触れると、金属製の何かに触れる。


(・・・え?)


 私はふと、違和感を覚えた。


 皮膚の下で動いているはずの人工の血管の感覚が、全くない。


 今まで、こんな事・・・。


「・・・?」


 私は、部屋を見回した。


 木製で、窓はガラスで四角・・・?


 コンクリートでしょ、家なら。


「ガァァ!!」


「・・・っ」


 とっさに身構えると、窓の外にある木にいる鳥(?)がじっと見て来た。


 外見は、カラスそっくり。唯一違う点と言えば、目が真っ赤な事くらいだ。


「ここ・・・」


「気が付いたか」


 独り言を遮るように、真後ろから女性のアルトボイスが聞こえた。


「・・・っ」


 完全に背後を取られた。


 そう認識した瞬間、しっかり身構えて、声のした方を見る。


「はっ」


 思わず、声が出る。


(いない!?)


 さっきは、声がしたのに!?


「おーおー、警戒心剥き出しだな」


"シャッ"


 私は、静かに両手を挙げた。勝てないと悟ったからだ。


 実際、私の首には氷の刃のような物が当てられている。


「まぁ、お互い初対面だ。まずは、仲良くなろうじゃないか」


 氷の刃をどかすと、その女性はクスクスと笑った。




* * *




「ポタージュは食えるか?」


「・・・」


 この人は、誰なんだ?ここは、どこなんだ??


 典型的な疑問を、頭の中で永遠と並べる。


 まず、どうみてもこの家は私の住んでいた世界線とは思えない。


 戦争中であった現代において、木製の家なんて論外だからだ。


「おお、今日は上手く出来たぞ!!」


 そして、この人間も尋常じゃない。


 黒髪に真っ赤な目、さっきの鳥のような見た目をしている私はどこの国に行っても恐れられる存在。良くも悪くも私の噂を聞いた事がない者など、世界的に珍しいだろう。


 なのに、全く動じない。逆に、動じない方がおかしいはずだ。


 残る問題は・・・。


"・・・チャリ"


 首元に触れると、金属製の首輪の感触。私は、この首を確かに・・・。


「・・・ぅ」


 私は、静かにかぶりを振った。


 やめよう。思い出しても、何の得にもならない。


「よし、こんなもんで良いだろう」


 そう言いながら、女性は汁物を木製の皿によそった。


 なんとも言えない、優しい匂いが部屋いっぱいに流れ出す。


"グゥゥゥ"


「っ・・・!!!」


「あっはは、やっぱり腹減ってたのか。わかる、わかるぞ。腹が減った時は、なぜか腹も立つものよのぉ」


 そう言いながら、女性は私に皿を渡してきた。


 私はジッと見つめて、受け取らない。何が入っているか、まだ分かってない。(←先程殺されかけた)


「ほら、食え」


 一向に食べようとしない私の口に、女性は汁物を突っ込んだ。


 ・・・そして、どうなったか。


「あっっっぅぅぅぅぅ!!!???」


「おっと、出来立てだったからな。すまんすまん」


 慌ててフーハーとする私の目の前に、水が入ったコップが置かれた。とっさに掴んで、喉に流し込む。


 少し痛みはするが、大事には至っていないようだ。


「お前・・・!!!」


"ガタン"


 本当に、一発殴ってやろうと立ち上がると、女性は笑った。


「スープは飲まぬが、水は飲むのか」


「っ、それはお前が」


「ヴァイオレット」


「・・・は?」


 女性は、机を挟んで私の向かい側の席についた。


 唯一見える形の良い口元が、ニッと笑った。


「私の名は、ヴァイオレットだ」

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