高性能戦闘用人造人間第37号

"_____ピピ"


 2026年8月19日(水)。ある研究室で、私は創り出された。


 そう、"私"・高性能戦闘用人造人間第37号の始まりだ。第3次戦争中生み出された、世界初の戦闘用ロボットの成功体。


"ザシュッ"


『37号だ!!!』


『戦車、1番大きい戦車を用意しろっ!!!』


 従順に戦争の最前線に赴き、人間を狩る。女子供も、何一つ関係なく。ただただ殺す。


『お願い、助けて!!』


『この子だけは・・・、この子だけは・・・』


 同情なんて生易しいものは、"私"には必要ない。


"ビシャッ"


『・・・任務完了ミッションコンプリート


 "私"が願うは、"私"の故郷の平和。それさえあれば、自分の心身共に血に染まろうといとわない。


 ・・・でも。



『お前は、もう必要ない。37号』



 有能過ぎた。人間を狩り過ぎた。


『怪物だ』


『化物だ』


『爆弾だ』


『死体だ』


 敵のみならず、味方であった人間。"私"が守っていた人間でさえも、《高性能戦闘用人造人間第37号》を恐れた。


『・・・博士』


『・・・』


 ーーー"私"作った張本人でさえ、恐れ出してしまった。



『殺せ、化物が!!』


『お前みたいな爆弾は、この国には要らない!!』


 "私"が守り抜いた国は、"私"にーーー死刑判決を下した。


(私は・・・、私はただ・・・!!!)


 必要とされたかった。生きて良いって言って欲しかった。皆に・・・、認めてもらいたかった。ただ、それだけ。それらさえも。


(私は、望んではいけないの・・・?)


 叶えてくれとは言わない。だから、せめて望ませてほしかった・・・・・・・・・


 最初は、"私"だって怖かった。ロボットの中でも高性能で、知性も感情もあった。


(それでも、それでも、私は頑張ったのに・・・!!!)


『博士・・・!!』


 困らせたくなかった。だから、"私"を作ってくれた恩師に、"私"を育ててくれた恩師にせめてお礼を言いたかった。


 _____本当に、最後の望みはそれだけだった。


  "パァン"


 死刑会場全体に音が鳴り響き、最初は何が起きたのか全く分からなかった。けれど、左頬が痛く熱くなっていくのを感じて"私"は初めて博士に叩かれた事を認知した。


『お前は・・・』


 博士が、"私"を見た。_____怪物を見る目で。


『お前は・・・、作るべきではなかった・・・!!!』


  "ブツン"


 何かが・・・、私の奥底で必死に守り続けて来た何かが、一瞬にして引き裂かれた音がした。




* * *




『っはぁ・・・、はっぁ』


"パチパチ"


 目の前には、燃え広がる火炎。世界有数の大都市は、一瞬にして消し飛んだ。


 足元を見れば、もうどれが誰だかも判断出来ない変死体の数々。


(違う・・・、違う・・・)


"ベチャ・・・"


 "私"は、赤黒く染まった手で自分の顔を覆った。


『こんなんじゃ・・・、違う違うっ』


 "私"が望んでたのは、こんな光景じゃない。地獄絵図なんかじゃない。


"グシャ"


 誰かも分からない、目の前の肉塊を掴んだ。


(嫌だ・・・、嫌だ・・・っ)


 ただ、創られた時みたいに期待の眼差しで見てくれれば良い。笑いかけて、話しかけてくれれば、それ以上は望まなかった。


 だから、死刑宣告を受けても反論もしなかった。


 昔と同じであれば、"私"は_____。


『あ゛・・・、あ゛あ゛・・・、ああああああああああ!!!!!!!!!』


 2051年1月9日(月)。"私"は、"私"を・・・"私"の全てを自らの手で握り潰した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る