その②
◇ ◇ ◇
王城から戻ったのは夕食の時間をとうに過ぎた午後7時過ぎ。なにも知らないアリス様は笑顔でわたくしを出迎えてくれました。
「遅かったね。サミ君と会ってきたの?」
「いえ。父上と少し話を」
「そっか。あ、ご飯食べた? まだメイドさんいるから食べれるよ」
「大丈夫ですよ。城で軽くつまんできましたので」
本当はなにも食べていませんがいまは水すら口にしたくありません。まだ父上に蹴られた腹部が痛むのです。
「このまま休ませて頂きます。アリス様も夜更かしなどせずに早くお休みくださいね」
「う、うん。おやすみ」
顔に出ていたのでしょうか。いつもなら部屋で話そうと誘われても良さそうですがアリス様はなにも言わず、ただ心配そうに自室へ向かうわたくしを見つめるのでした。
(良かった。どうやら気付かれていないようですね)
城を出る前に身なりは整えましたが目はまだ充血しているはずです。それに父上に叩かれたはずみで口の中も切っています。勘の良いアリス様ですからひょっとしたらと恐れていましたがどうやら無駄な心配だったようです。
(明日には目の腫れも収まっているでしょうし、あとはアリス様を――)
アリス様の処遇を考えるだけ。少なくともわたくしにはこのお方を手に掛けることは出来ません。だからといってなにもしなければ父上が新たに刺客を用意するでしょう。しかしフェリルゼトーヌお戻りになるには時期尚早だと考えるのが妥当です。
「とにかくいまは……」
「エリィ?」
「いまはまだこの離宮で……」
「エリィ!」
「は、はい……アリス様?」
振り返るとそこには頬を膨らませ不満を露にしたアリス様がいました。きっとわたくしをずっと呼んでいたのでしょう。ようやく気付いたわたくしに向け頬を膨らませています。
「ずっと呼んでたのに全然気付かないなんて、ちょっと酷くない?」
「も、申し訳ありません。少し考えごとを」
「なんてウソ。怒ってないよ。ちょっと話さない?」
「え?」
「王城でなにかあったんだよね。すごく辛そうな顔してる」
「――っ⁉」
なんで。なんでこの方はこんなに察しが良いのでしょう。アリス様だけに気付かれまいと必死に顔を作っていたのに、貴女はやはり気付いてしまうのですね。
「ちょっ、なんで泣くの⁉ 嫌なら話さなくて――」
「いえ。アリス様にはなんでもお見通しなんだな、と」
「なんでもじゃないよ。エリィが悲しそうな顔してるからそう思っただけだよ」
「――まったく、アリス様は本当にお優しいのですから」
頬を伝う涙をそっと拭ってくださるアリス様はやはりこの国の脅威などではない。ようやく確信が持てました。
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