その③
「エリィ?」
「アリス様、お話があります」
「なに?」
「とても、とても重要なお話です」
わたくしが知る全てをお話しよう。そう心に決め、わたくしはアリス様を自室へと案内します。考えてみればわたくしがお部屋へ行くことはあってもアリス様がこちらへ足を運ぶことはありませんでしたね。そう考えると少し緊張します。
(……一体どこから話せばよいのでしょう)
自室へ向かう途中、わたくしはなにをどう話せば良いのか頭を巡らせました。言い訳などするつもりはありません。ただだれの命で御命を狙ったと言えば良いのか答えが出ないのです。
(本当にサミル様のご意思なのでしょうか。それとも――)
別のだれか――例えば父上がサミル様を隠れ蓑にしている可能性もあり得るのでは? しかしそれは一歩間違えれば反逆と捉えられても仕方ないやり方です。いくら父上でもそのようなことは……
「――エリィ、着いたよ」
「え?」
「エリィの部屋、ここでしょ?」
アリス様に促され正面を見ればいつの間にか自室の前まで来ているではありませんか。鮮やかな彫刻が施された扉は王族が使う部屋である証。本来であればわたくしのような人間が使える部屋ではありませんが、アリス様の護衛を仰せつかった身であり、公爵令嬢と言う立場でもあることからサミル様の御高配で使わせて頂いています。
「入って良い?」
「ええ。どうぞ」
「やった。おじゃましまーす」
子供のように嬉々とした表情で部屋の中に入るアリス様は珍しそうに室内を見渡されます。他人の部屋をそのようにジロジロ見るのはマナー違反ですよと申したいところですが、今日のところはなにも言わずにいましょう。
「アリス様の御部屋と比べると少しばかり狭いかもしれませんが好きに寛いでください」
「ありがと。それじゃ、遠慮なく――えいっ」
「え、アリス様っ⁉」
なぜベッドに飛び込むのですか。確かに天蓋付きのこのベッドは一人で使うには大き過ぎますがだれも寝て良いとは……
「せっかくエリィの部屋に来たんだし、今日は一緒に寝ようよ」
「一緒にって……な、なにを考えているのですかっ」
「別になにも考えてないよ? それともナニかする気?」
「な、なにを言ってるのですか! お戯れも程々に――」
「――話。あるんでしょ? なら、ゆっくり話そうよ」
急に真面目な顔をされるアリス様はベッドの淵に座り直し、その視線は真っすぐわたくしに向けられています。それは包み隠さずに全てを打ち明けよと言っているようでした。
「王城から戻ってきてからのエリィ、ちょっと変だよ。嫌なことがあったんじゃない?」
「それは……」
「言いたくなければそれで良い。でも私にぶつけることで楽になるならいくらでも言ってよ。全部受け止めるから」
本当は全て知っているのではないか。そんな風にも思えるアリス様の素っ気ない口調はわたくしを安心させます。なに一つ隠すことなくお話しようとアリス様の隣に腰かけました。
「――ワタシの役目はアリス様をお守りすることではないのです」
「うん」
「本当は貴女を殺すために送り込まれた刺客なのです」
「……そっか」
「驚かないのですか」
「驚かないよ。それに、いまさら逃げ隠れしようとも思わない。当然助けを呼ぼうとも思わないよ」
「――なぜ」
「エリィ?」
「なぜ冷静でいられるのですかっ。ワタシは! 貴女を……アリス様を殺そうとしたのですよっ。なのに……なんで……っ!」
他人事のような反応を見せるアリス様に声を荒げてしまうわたくしは悔しくて涙が出ました。わたくしは死を覚悟して真実をお伝えしました。それなのに自分事とはとても思っていないような態度に怒りにも似た感情が芽生えました。
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