第5話 初めての戦い

 最初に動き出したのはハーピィの少女だった。


 地を蹴り、超低空を飛行し高速で迫るハーピィへと私は手を向け、影を伸ばす。

 伸ばした影は影の刃となり、地表から突き出しハーピィを突き刺さんと突き出る。


「やああっ!!」


 ハーピィは空中で身を回転させ突き出す刃を躱し、肉薄ざまに踵を振り下ろす。

 私は一撃を後ろに飛んで躱し、同時に追撃の蹴り上げが頬を掠める。


「速いな……!!」


 迫っていた女武闘家の拳打を両腕と拳で受け流し、影を右手に纏わす。

 突き出される拳と突き出した拳が互いにぶつかり合い、火花を散らす。


「【ウィンドジャベリン】!!」


 魔法師が杖から風の槍を放つ。

 放たれた風の槍へと手刀を振るい切り裂くとハーピィの蹴撃を体捌きで躱す。


「怪物め!!」

「お前もその一人だろう」


 続けざまに回し蹴りを身を屈めて躱し、タックルするように体を密着させる。

 同時に拳をハーピィの胸へと押し当て、魔力を拳へと溜め込む。


「【魔力撃】」


 ドンッ!!と。


 鈍い衝撃音が響き渡り、ハーピィの体が跳ねた。

 内部に伝わった衝撃は的確に心臓を破裂させ、ハーピィの口から血が吐き出される。


「あ……え……?」


 口からダラダラと血を流し、再び血塊を吐き出すと地面に倒れた。

 顔を濡らした返り血を舐め、血の味を堪能する。


「まずは一人だな」

「くっ……!!よくも!!」


 刹那、女格闘家が地を蹴り私との間合いを詰める。

 初撃の拳を躱し、すかさず繰り出される回し蹴りを左手で受け止める。


「【ウィンドアロー】!!」


 即座に魔法師が風の矢を私に向けて放つ。

 私は地面を蹴りムーンサルトを描きながら風の矢を躱す。

 着地と同時に迫る女格闘家の拳を身を翻して躱し、右腕の袖口から影の触手を伸ばす。


「吹き飛べ」


 踵を返して体を捻り、影の触手を振るう。

 全身の力を十全に乗せた一撃は女格闘家の脇腹を捉え、薙ぎ払う。

 女格闘家は吹き飛び、地面と川を何度もバウンドしながら転がっていく。


(弾いたが。後衛でもそのくらいは当然と見るべきか)


 地面を抉る風の砲弾を手刀で切り裂き、魔法師へと影の触手を伸ばす。

 魔法師は杖を槍のように構えて振るい、触手を弾いてく。


(よくやる。なら、肉薄して殺す)


 地面を蹴り、私は魔法師との間合いを詰める。

 触手を弾き、女魔法師は再び杖の先端を私へと向ける。


「【ウィンドジャベ――!?」


 魔法を詠唱しようとした瞬間、自分の影から伸びた触手が杖を持つ右手に絡みつく。

 触手は杖の照準を変え、不完全な風の塊は私のすぐ脇を通り過ぎていく。

 致命的な隙、その中に私は足を踏み込み拳を魔法師の腹へと打ち付けた。


「くっ……ああっ!!」


 その瞬間、右腕に女格闘家の拳が伸びてくる。

 即座に右腕を引き、拳を弾くと同時に蹴りが右腕を蹴り上げる。


「あああああああああああああああっ!!」


 瞬間、ボキリという音と共に右腕が曲がってはいけない方向に曲がった。


「ッ――!?」


 焼けるような激痛が右腕から伝わる中で即座に影を右腕で纏わせ外骨格のような装甲を作り形を矯正する。


 破損した骨が筋肉の筋に突き刺さり、動かすたびに痛みが生じる。

 しかし、利き手が使えなくなるよりかは遥かにマシだ。


(鱗がいくら硬くても伸ばされている時に蹴られれば折れるか……!!)


 拳と蹴りの応酬を両手と尾を振るい捌き、打ち下ろされる風の槍を後ろに跳躍して躱す。

 空中を舞う中、右腕を振るい影の刃を魔法師に向けて放つ。女格闘家は即座に射線に割り込み回し蹴りで刃を弾く。


「はああっ!!」


 独楽のように振るう足と右腕が衝突する。

 盾のような構えた右腕と伸びた足が拮抗し、私は笑みを浮かべた。


「これで終わりだ」


 瞬間、女格闘家の喉から影の刃が突き出た。女格闘家の足元に出来た影を操り、影の刃を作り出したがためだ。


「これで二人、だな。……と」


 突き出される杖の一撃を左手で受け流す。

 同時に放たれた風の槍が右脇を抉り、血が吹き出す。

 即座に私は影を伸ばして出血を防ぐ。その僅かな隙に再び魔法師の体内で魔力が練り上げられる。


「【ウィンドジャベリン】!!」


 魔法が放たれる刹那、魔法師の影から伸ばした触手が媒体である杖を押しのける。

 照準が乱れ、風の槍は私のギリギリを掠める。同時に私は前に足を踏み込む。


「あ――」

「トドメだ」


 魔法師が何かを告げようとした瞬間、胸を右手の貫手が貫いた。

 口から血を吐き出し、胸から右手を引き抜くと同時に魔法師は地面に倒れた。


「あー……疲れた……」


 川岸に腰を下ろし、右腕の影を外す。


 影が消えた右腕は悲惨のそのもの。

 鱗は剥がれ、裂傷が走っている。

 無理やり形を作り直したためところどころ骨が飛び出しており、見るからに痛々しい。


(あー……結構やられたな。普通の骨折より治るのに時間がかかりそうだ)


 私は立ち上がり、地面に影を伸ばす。

 私が殺した四人にまで影が伸びると四人の亡骸が影の中へと沈んでく。

 影の中は異空間となっているらしく、生物以外の物を収納できる。影の中は時間の流れが無いに等しく、劣化も風化もしない。


(私が殺した者たちを獣の肉になぞさせてたまるか)


 影の中に亡骸が沈みきると私は服とタオルを手にして集落への帰路につくのだった。

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