第42話:草刈機バギーの性能

 ルルは軽い! そして、身体がコンパクトにできてる! 小柄な女の子は無性に庇護欲を掻き立てられていけない。


 何が言いたいかというと、例の草刈機バギーに二人乗りで町の北側に向かってる。さすが日本製、定員オーバーでも楽々走ってる。しかも、後ろにはキャスター付きのかごとも言えるキャリーワゴンも引っ張ってる。


 それでも、草刈り機のシートは完全に一人用。原付みたいな余裕はない。ルルをしっかり座らせて、俺は半分立ったみたいな中腰での運転。二人乗りだけど、あんまり楽じゃない感じ。俺は何をしているのか。


 もちろん、後ろのキャリーの中には電動シャベル、電動オーガ、一輪車まで積んでいるのだ。その他、手動式にスコップも数本あったから持ってきてる。


「コーイチ様! すごい速さですね!」

「ま、まあ、ね」


 草刈機バギーは移動時でもいいとこ時速13キロほど……のはず。草を刈りながらだと時速7キロくらいまで遅くなる……って取説に書いてあった。


 ところが、体感で時速30キロほどで走っているのだ。速い! キャノピーは屋根がある分、シールドもあるので原付とかバイク特有の強い風が顔の当たる問題を解決している。でも、この異常な速さの草刈機バギーはシールドなんてない! それどころか、時速30キロとか出る様になってないはず! 何だこれ!?


 シートの後ろに座っているルルは俺の腰に手を回して二人乗りしてるんどけど、怖いのかしっかり抱きついてきて運転に集中できない! 柔らかな2つの膨らみの感触が背中に伝わってくる。


 こっちの人は下着を付けないみたいだから、その柔らかさはひとしおなのだ! なんだか、いけないトビラが開いてしまいそうだ。


 ***


「なんだこりゃ!?」


 草刈りの現場に到着した。今度は草刈機バギーが速い上に迷わず一直線に来たから驚くほど早く着いた。


 見て早々寄ってきて驚いたのはカイだった。彼がエンジン式の草刈機を使いまくってるので、音に驚く町民はいなかったけど、注目はされていた。


 しかも、珍しいのだろう、みんな作業を中断して集まってきてしまった。めちゃくちゃ目立ってる。注目されるのは苦手だ……。


「マスター、これは!?」


 カイはイの一番に興味津々だ。バギータイプの草刈機は普通家にないだろうけど、どこかで一度は見たことがあるはず。ひと目で現状を大きく改善できるものだと判断したようだ。


 「走るのは普通のバイクとかと同じ感じで、ここのレバーを引くと除草しながら走れます」

「マジか!?」


 一応そこら辺で簡単に実演してみせた。カイがすぐに代わって欲しいというので、草刈機バギーを渡す。おもちゃを手に入れた子供のように叫びながらそこら辺を縦横無尽に走り、草を刈って行く。


 端から順番にきれいに刈って行きたくなる日本人のDNAはどこに行ったのか分からないカイは視界の左端から視界の右端まで叫びながら楽しんで草刈りをしている。めちゃくちゃすごい勢いで草が刈れているので、そこら辺に刈った後の草が倒れている。


 俺は町の人たちを知らないので、面識のあるリクとクウに箒みたいな金属の棒が扇形に広がったやつに取っ手が付いたやつを渡す。


「なにこれ、草が集めやすい!」

「見た目に反して軽い!」


 リクにもクウにも好評だ。


「お! 熊手まで持って来てくれたのかよ!」


 そう言って横から顔を出したのは、金髪ブルーアイズ。この人は、中身は日本人だけど、見た目が西洋人なので俺の社交できないスキルが発動してしまいがちだ。ただ、ちょっと話すといいヤツだと分かるのでもう少し慣れれば問題ない。


 そして、このリクとクウが使っている道具の名称が『熊手』ってことを異世界顔のヤツに教えてもらう屈辱! そうだよ、熊手だよ! 何だよ『箒みたいな金属の棒が扇形に広がったやつに取っ手が付いたやーつー』って! 俺のボキャブラリーのなさはどうした!?


「カイには草刈機を売って、もっといいのがないか聞かれてたから、いいものを持って来た」

「すげえな! あんな草刈機初めて見た! あれもスキルか!?」

「……スキルだ」


『スキル』で何でも解決できるってすごいな。この言葉の方が魔法に感じてきた。


「ただ、あれだけ草を早く刈れると木の方が邪魔になるな」


 そう、今討伐しているのは魔物でも何でもない。森林なのだ。そんな異世界ものをかつて見たことが無いけれど、森の木を切ってその木を使って町に塀を作る予定なのだ。


 そして、木を切るために周囲の草が邪魔、と。


「金髪……山田にはこれ持って来た」

「俺は『田中』だからな? 絶対俺の名前まだ覚えてないだろ」


 見透かされてしまった。『金髪ブルーアイズ』は俺が勝手に決めて、心の中で呼んでいるあだ名。だって、俺名前覚えるの苦手だもん。


「あの……本名ももう一度教えてもらえますか?」

「たく……しょうがねえなぁ。ファティオン・グレバール・ザッタムンだ」


 覚えられる気持ちが1ナノも発生しない。聞き覚えがある言葉が1つもないのだから。


「その顔は『覚えらんねぇ』って表情だな。せめて『田中』で覚えろよ。覚えやすいだろ『田中』。日本で4番目に多い苗字だぞ?」


 だからこそインパクトに欠けて逆に覚えにくい! この西洋顔が余計に『田中』と結びつかない!


「それはいいから、何持って来てくれたんだ?」


 話を円滑に進めてくれる金髪ブルーアイズ田中は今日も実にいいヤツだった。


□お礼

なんかじわーってアクセスが伸びてます。

あなたのアクセスのお陰だと思います。

「事件が起きない」で話題になったらアレなので、早く話を進めたいところですが、主人公の晃市が変なところに注目してしまうので、しょうがない……

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