第43話:人間の可能性

「異世界では木をどうやって切ってる?」

「あ、異世界をバカにしてるだろ。ちゃんとノコギリはあるんだぞ?」


 そう言って金髪ブルーアイズはノコギリを見せてくれた。金属製だ。鉄と違って鈍い銀色の金属で俺にはそれがなんの金属か分からなかった。少し青みがかってる。こんな金属はは見たことがない。


 手近な木にノコを当てて切り始めた。


(ギコギコギコギコギコギコギコギコ……)


「ふー。ちょっと休憩」


 金髪ブルーアイズは切り始めて数分しか程度で休憩した。確かにおがくずが出ているので木は切り進められているのだろう。でも、遅い。


 よく見たらノコの刃が厚いようだ。金属の耐久性などを考えてこの厚さが必要だったってことかな。


「田中に持って来たのはこれなんだ」

「おわっ! マジかよ!?」


 俺がキャリーから取り出したのは、チェーンソー。こちらのエンジン式のチェーンソーだ。


「木を切るって聞いて。使えるかなって思って」

「めっちゃ使える! こっちではノコで下準備したら、その後はひたすら斧で1本1本切り倒してるから」


 この一言で割と色々理解した。金髪ブルーアイズは木を切り倒したいけど、チェーンソーは使ったことが無い。そして、渡すだけじゃダメで実演して見せないといけないと思う。


 この時点で思い出した。


 日本でも木を切る時にチェーンソーだけあっても木を切るのは大変だ。木を切る時は、木の側面に横からV字に切れ込みを入れる。基本的にこの方向に木が倒れるので、事前に倒したい方向に切れ込みを入れるか、木の重心を見て倒れる方向を予想して切れ込みを入れる。


 俺も勘違いしていたけど、これだけでは木は倒れない。V字の切れ込みを入れた反対側にも小さめのV字の切れ込みを作り、そこにクサビを打ち込んでいくのだ。クサビとは、V字の道具で木の切れ込みにはめ込んでこの道具をハンマーでたたき入れて行く。


 そうすると木は少しずつ切れ込みが深くなっていくのと同時に上下に押し広げられるので傾いていく。それで、あらかじめ入れたV字の切れ込みの方に木が倒れて行くのだ。


 じいちゃんが木を切っているのを見ていたし、それは知っていた。ただ、そのくさびは持ってくるのを忘れた。これって自分でやる気が全くない時の現象だ。現場に来たら急に思い出すやつ。


「色々道具を忘れた……でも、できるところまでやって見せる」

「おう、分かった」


 すぐに切り倒せるわけじゃない。とりあえず、最初の工程だけ教えておいて、作業をやってもらっている間にクサビを持って来てもいいし、なんなら、切った木で即席のクサビを作ってもいいだろうと思っていたのだ。


 俺がチョークを捻ってレバーを引く。勢いよくエンジンの音がして一発でエンジンがかかった。これは絶対じいちゃんが手入れしていたやつだ。刃はきれいにしてあったけど、エンジンも手入れしていたのかな?


 エンジンの音とチェーンの音で周囲の人は遠巻きに見ている感じ。警戒しているようだ。そりゃあ、これだけの音がしていたら普通そうだろう。


 一方、金髪ブルーアイズはチェーンソーこそ使ったことが無いにせよ、エンジンについて怖いとか思わないから気軽に近くにいて俺の実演を興味深く見ていた。


「まず、V字に切れ込みを入れるので、水平に刃を入れます」

「おう」


(ズドーン)俺が大木に水平にチェーンソーの刃を入れたら次の瞬間、木が倒れていた。


「ええー!?」


 俺が驚いた。


「すっげ! チェーンソーってこんなに破壊力あるんだな!」


 金髪ブルーアイズも驚いてた。


 いや、破壊はしていないのだけれども。V字に切れ込みを入れるってくだりはなんだったのか。日本刀で藁の束を切る居合切りよりも簡単に直径1メートルはある木が切れて、倒れた。


 あらかじめ人が周囲に異なことを確かめてから切り始めたのに、この早さで木が切れるなんて……。俺は驚いてエンジンを止めてチェーンソーを地面に置いた。周囲の人も驚いて集まってきている。エンジンを止めて静かになったこともあってすごくいっぱい集まってきた。


「なぜこれを先に出さない!? 俺、実演だけでめちゃくちゃ疲れたぞ」

「いや、人類は内燃機関なしの工具でどこまで頑張れるのかと思って……」


 意外に大変だな。ちょっと見てるだけで気の毒になった。


「よし! とりあえず、俺に貸してくれ! 俺も切ってくる!」

「いや、あの……」


 チェーンソーを構えると、エンジンをかけて金髪ブルーアイズが森の方に進み、次の木を切り倒し始めた。


「何事だ!?」


 集まって来た人の先頭はライオンマスクだった。

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