第40話:静かな町
アニメとかを見てると、異世界で町に出ると決まって活気があって圧倒されるのが常だ。ところが、この町は活気がない。
活気がない町と言えば、町自体が大きな問題を抱えているときだ。盗賊団に脅されているとか、龍神様に生贄を捧げないといけないとか……。
ところが、全く人通りがない訳でもない。普通に寂れた町なのか? 人がチラホラしか歩いていない。
町の中央まで来てみたら、大きな噴水らしきものはあるけれど、水がない。出店の屋台っぽいところでも商品は少ないし、スーパーらしきところはそもそもない。
「あまり人がいませんね」
「そうだな」
ルルも変だと思ったらしい。
「チュウカン町ならうちの村より圧倒的に活気があるって聞いてました。これなら、今のうちの村のほうが活気があります」
確かに。広さで言ったらルルの村より圧倒的に広い。ルルのところが30軒くらいしかないけど、ここは数えられないくらい家はある。
俺たちはそのまま北上して森の方まで足を伸ばした。
今度は一転、人がたくさんいた。軽く50人はいるだろう。あんまりたくさんの人を数えた経験がないので、100人くらいいるのかもしれない。
みんなで草刈りと、木を切っているようだ。草刈りで活躍している人に見知った顔を見つけた。両手に花のカイが例の草刈機を持ってじゃんじゃん草を刈ってる。
ほとんど一人で刈って、数人でその草を集めているような状態。他の人は斧を持って木を切り倒そうとしている。異世界者としてはとても地味な絵面だ。
「お疲れさま」
「お! マスターじゃないか!」
カイに声をかけたら、草刈機のエンジンを止めてこっちに来てくれた。
「どう? すごくない!? これ!」
確かに、一人で刈ってる量じゃない。高性能な草刈機だったかな? 普通、草刈機と言ったら、丸い刃の先の部分でしか草を刈れないので、同じ場所を何度か往復させるようにして草を刈る。
ところが、これはすごくてスパスパ切れてる感じで、カイが左右に振りながらどんどん歩いて進んでいっていた。
うちの庭の草を刈っていた時の10倍は早いのだ。
「どういうこと!? 早くない!? ……ですか!?」
店での口調を残してみた。
「こいつはすごい! マスターのスキルなんだろ!? 俺はもっぱら草刈り担当で楽して稼がせてもらってる」
見れば森から蔦みたいな、草みたいなやつがたくさん伸びてきていた。
「最近森の成長が早くてな。もはや、この森自体が魔物なんじゃないかってくらい伸びてくるわけよ」
「そうなんですか」
「だから、こうして刈らないと町が森に飲み込まれちまう」
そう言えば、ルルの村も一部森に飲み込まれて、川の周辺にいけなくなったって言ってた。
「その上、森の奥じゃ魔物がすげえわいてるらしい。町が襲われる前に塀を作るって話で、木を切るのはその材料も兼ねてるから一石二鳥なんだよ」
切り倒した木がすぐに材木として使えるのかどうかは知らないけど、とにかく大変な作業だということだけは分かる。
「話に出たチェーンソーですけど、早めに持ってきてみましょうか」
「ほんとか? 助かる! 頼む!」
他に必要なものがないかあたりを見てみた。
「木を運んで、それで壁を作るんですよね?」
「ああ、そうだ」
「他にいるものとかあります?」
「出せるのか!? 実は堀も掘るらしいからサグガン機と一輪車とユンボと……」
色々出てきた。ここも道具が無いわけじゃないので、一輪車自体はあるみたいだ。でも、車輪が木製だ。あれでは、段差があったとき手への振動が大きいだろう。しかも、一輪車自体が重たそうで、大変だ。
「分かりました。色々出してみます。また声をかけますから、そのときは荷物運びも手伝ってください」
「もちろんだ! 頼むな!」
そう言うと、カイは草刈り作業に戻って行った。リクとクウもサポートしてる。やっぱりあの三人は仲がいい。
「さて、俺たちは一旦帰るか」
「はい!」
こうして、出てきたばっかりだけど、すぐに店に戻ることにした俺たちだった。
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