第38話:ルルのスキル

「コーイチ様!」


 ライオンマスクが帰っていった後、ルルに呼ばれた。


「なに?」

「さっきの料理、私も作ってみていいですか!?」


 生姜焼き(?)のことだろう。試食目当てかな? まあ美味しいからいいか。料理を好きになってもらった方が、何かと都合がいい。ルルが調理を覚えてくれたら助かるし。


「まだ少し解凍した肉があるから焼いてみて。豚肉は中心まで火を通す必要があるから注意してね」

「はい。分かりました」


 ……驚いた。


 1回俺が肉を焼いているのを見ただけで、調理工程を全て覚えていたのだ。焼くだけとはいえ、味付けのタイミングとかあるし。


 そもそも、ルルにとっては未知の調理器具なのだ。それなのに、注意どおりちゃんと中まで火が通ってる。その上で焼きすぎでもない。ちょうどいい具合なのだ。美味しそうな匂いがしている。


 盛り付けも完璧だ。いや、俺より上手だった。


 一般的なヒロインのお約束とは、料理をすれば炭にするか、ダークマターにするかの2択だったはずでは!?


「完璧だ。見た目も味も!」

「ありがとうございます!」


 完璧過ぎてびっくりだよ。市販のタレなのに、めちゃくちゃ美味しいし! ちゃんと調理したら、同じ材料、同じ調味料でもこんなに違うんだ!


「やっぱり……」


 ルルが出来上がった肉を食べながら少し真剣な表情をした。俺のポンコツぶりを理解したのかな? それはそれで悲しくなってきたような……。


「どうした?」

「はい、このお料理はすごいです!」


 美味しかったってことかな?


「このお料理を食べると『能力強化』が付いてます!」

「能力強化?」


 ゲームの世界でしか聞かないような言葉が聞こえてきた。


「はい、ここのお料理を食べると一定期間能力が20%ほど上がるみたいです」

「それが分かるの!?」

「はい、少しですが私は『鑑定』スキルが使えるんです」

「すごい!」


 よく分からないけど、『鑑定』スキルがある人って貴重なんじゃないだろうか!?


「そのスキルだと、料理を食べただけで20%能力が上がるってのが分かったんだ」

「はい、さっきの方は『あれっ』って思った程度でしたけど、後の金髪の方の時に気付いて、さっきの獣人の方の時にハッキリわかりました」


 ルルの表情は真剣なので、本当なのだろう。


「『ステータス』とか見える感じ?」


 俺は興味津々だ。


「あの、えっと……、『ステータス』……ってなんですか?」

「えーっと、目の前に透明の板状のものが出現して、そこに数値が表示されているみたいな……」

「んー……たぶん、そんな感じです。板みたいのは私の場合、あんまり見えなくて数字が見える感じです」


 なにそれ、すごい。……じゃあ、俺の能力とかも見えていたのでは!?


「俺の能力値って見えるの?」

「えーと……」


 ルルが急にもじもじし始めた。なにが見えたのだろうか。


「ハッキリ言ってほしいんだけど……」

「あの……能力を盗み見るって言うのは申し訳ないと思って……」


 なんだその気の使い方。現世界にはそんな現象が無いから、失礼とか失礼じゃないとかよく分かんないんだけど……。


「ぜひ見てほしいし、ぜひ数値を教えてほしい!」

「は、はい!」


 こういうのはハッキリ気持ちを言った方がいいもんだ。俺は好奇心が止まらなかった。


「……」


 ルルが俺の方を見ている。目線が合うとちょっと恥ずかしい。だって、ルルかわいいんだもの。かわいい子と目線が合うことなんてほとんどないから、テレが先に来る。


 まあ、気分で言ったら、霊能者に背後霊を見てもらってる気分。なんて言われるか期待もあるけど、不安もある。


「……分かりません」

「え?」

「多分、私の能力よりはるか上だからだと思います」

「どういうこと?」


 せっかく言ってくれたけど、意味が分からない。


「私から想像できる範囲はある程度見えることが多いんですけど、能力的に高すぎる方は私の物差しでは測りきれないのか、分からないことがあるんです。


 そんなもんなんだ。いや、ちょっと待てよ。そんな『鑑定』みたいなスキルがあるなら、俺にも鑑定……までもないにしろ、『ステータス』くらいは見えるのでは!?


 俺は静かに右手を上げて静かに唱えた。


「ステータスオープン!」


 静かに待ってみた。


「……」

「……」


 何も起こらない。右手を肩の高さまで上げて止まる俺。それを見守るルル。とても恥ずかしい状況だ。


「あの、コーイチ様?」


 なんだか申し訳なさそうにルルが話しかけてきた。


「いや、ごめん。なんでもないんだ」


 多分、俺の顔は真っ赤だ。恥ずかしい。


 でも、分かったこともある。ルルは鑑定が使えるらしい。レベルとか上がったらもっと詳細に色々見れるようになるかもしれない。


「ルル……」

「は、はい」


 ここは気を取り直して、前向きに聞こう。


「能力強化が一定時間上がるってのは、どれくらいの時間か分かる?」

「いえ、上がるのは見えたので間違いないと思うのですが、どれくらいの時間家までは……。状況から見て、以前もこのお店で食事をされていたみたいなのですが、今回食べる前はそれが感じられず、食後に能力強化を感じました。つまり、一定時間の効果があると判断しました」


 ルルは頭がいいな。与えられた少ない情報から現状を正しく把握している。


「よし、じゃあ、見に行ってみるか」

「え?」

「金髪ブルーアイズもカイも魔物狩りに行くって言ってたし、遠くから見るだけなら危険も少ないだろ。危ないと思ったらすぐに逃げればいい」

「はい! お供します!」


 店の料理を食べると能力強化が得られるって話で、その効果がどれくらい続くのか気になってしまった。


 走り出した好奇心は止められないのだ。俺はルルの村に行って以来初めて外に出ることにした。この町はなんだか怖くて出られなかったので、これは俺なりの冒険とも言えた。


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