第33話:喫茶店デビュー

 ルルには じいちゃんが使ってた部屋を使ってもらって 別々に寝た 翌朝、 俺は 久々に店をオープンすることにした。


 曲がりなりにも店なので、オープンしないことにはお客は来ないし、売上も上がらない。


 ルルも何か手伝いたいと言うので、コーヒーを淹れてもらうことにした。そのためには、スエットというわけにはいかない。


 俺の制服のズボンの予備を貸して、それでは丈の長さが全然合わないので、裾を何度も折り曲げた。


 上はブラジャーをつけていないので、ピッタリめのTシャツを着た上に白いカッターシャツを着てもらった。これも俺の学校の制服の予備だ。


 長い金髪はポニーテールに結んで清潔感もバッチリだ。こうして見ると、先日までの村にいたときは汚れていた。エブリディキャンプみたいな生活だったから、それもいたし方ない。


 人間生まれ持った素質ってあるんだな。服こそ違うけれど、立っているだけで様になっている。


「ルル、コーヒーは淹れられるか?」

「はい、もちろんです。神さ……コーイチ様」


 ちょっと心配なところはあるけど、まあ御の字だ。俺だってちゃんとしてるか怪しいのだ。俺が見て彼女にしてやれるアドバイスなんてない。


 あえて言うなら、初めて店に立つときは、接客よりも裏方のほうがハードルは低い。彼女を接客ではなく、コーヒー係にしたのはそういう意味だ。


「これからお客が来るかもしれないけど、慌てなくていいからな。俺もいるし」

「はい!」

「よし、じゃあ、異世界喫茶店オープンだ!」

「はい!」


 俺は入り口ドアに向かい、ドアの鍵を開けた。空気の入替えも兼ねて扉を開けたその時だった。


 だだだだだだだだだだだだだだだだ……。


 見えるか見えないかくらいの遠くから一人の男が走ってきた。どうやら金髪ブルーアイズのようだ。


「マスター!いるか!?」

「おっと、は、はい。いらっしゃいませ」


 俺はお店仕様のよそ行きの言葉遣いに切り替えた。


「お前に教えてもらったスキルの使い方だけど……」


 なんの話だっけ? 最近ルルの村に行ってて、それまでのことはもうやや忘れてしまっている。


「まあ、どうぞ。店の中に」

「わ、分かった」


 金髪ブルーアイズは店内に入り、カウンター席に座った。


「おわっ! なんだよ店員か!? またかわいい子捕まえてきたな」

「新人アルバイトです。あまり気にせずに」


 そうでないと話は全然進まない。


「おっ、そうだ! これを何も言わずに受け取ってくれ!」


(ドジャッ)中にコインがたんまり入っているであろう麻布の小袋がカウンターに置かれた。


「これは?」

「金貨だ。100枚ある! ぜひ受け取ってくれ!」


 金髪ブルーアイズはおバカなのかな? こんな大金を『何も言わずに』とか言われて受け取るバカはいない。


「いや、事情を話してくださいよ! これってすごい大金でしょ!?」

「確かに! つい1週間前までの俺なら手にすることもできないような大金だ。でも、これはこの1週間で稼いだ金の半分だ」


 金髪ブルーアイズの表情は真剣なので、本気で言っているのだろう。でも、それを俺が受け取る理由がない。


「どうやって稼いだんですか? これ」

「それがさ、スキルだよ、スキル。俺のスキル!」

「ああ、物を収納できる能力……でしたね」

「そうそう! そして、マスターのアドバイスで剣先だけを収納して、数メートル先に取り出したりした……」

「ああ……」


 そんなこともあったな。しょうもないスキルだから、なんか面白いことに使えないか考えたやつ。


「あれで離れた魔物を狩れるようになったんだよ」

「はあ……」

「練習して、今じゃ10メートルくらい離れた先に剣の先だけ出現させられる」

「おお!」

「しかも、離れ具合も調節できるようになった!」


 つまり、どういうこと?


「つまり、10メートル手前から見えない剣で魔物を狩れるんだよ! ノーリスクで魔物が狩れる! だから、格上の魔物も怖くない!」

「なるほど!」

「俺はこの剣を『インビシブルソード』と名付けた!」


 長いな、名前。


「そうですかそうですか。それで、狩りに狩りまくってる、と」

「おうよ!」

「それで、律儀にお礼を持っててくれたんですね?」

「そういうこと!」


 ちらりと、麻袋を見た。結構な量だ。金貨100枚って言ったら、いよいよ100万円くらいにはなる……はず。


 そんなのをもらえるなら嬉しい! それはもう、スキップしてそこら中をぐるぐる回るほど嬉しい!


 でも、なんか怖い! 次にルルの方を見た。あの村や同じ様な村があったら、また救いたい。偽善かもしれないけど、それでもいい。喜んでくれるなら俺も嬉しい。


 そうは言ってもカネはいる。実際、ルルの村を救うのにだいぶお金は使った。このカネがあれば、マイナス分を補填できるし、次にもつながる。


「いいんですか? もらっても」

「ああ、もちろんだ! 俺たちは同郷だろ」


 そうだ。金髪ブルーアイズは見た目はこっちの人だけど、中身は日本人。見知らぬ異国の地で頑張ってる身だ。助け合えるところは助け合うということで……。


「ありがとうございます!」

「おう!」

「カレーごちそうします! 大盛り!」

「マジか!?」


 金髪ブルーアイズ……主人公並に良いやつだった。


 俺がレトルトカレーの袋を寸胴のお湯に放り込んだタイミングで、また外が騒がしかった。


「マスターはいるか!?」


 両手に花のカイだった。また面倒くさい話が持ち込まれる予感がした。

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