第32話:結局神様?
人は動揺したら何をするのか分からない。ルルに見られていると思ったら、さっきから失敗ばかりだ。
まず、ふすまで手を挟んだ。自分の左手を柱の位置にある状態で、右手でふすまを閉めた。
同じことを冷蔵庫でもやった。
「神様、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫」
その他、何もないところつまずいて、ごはんを作ろうと思ったら、炊飯器のスイッチを入れ忘れた。
極めつけは 料理だった。
「美味しい! 美味しいです、 神様! こんな料理見たことありません」
ルルの夕飯として出したのは オムライスだ。もちろん俺は料理はできない。業務用食材の店 『ファティ』で買ってきたものだ。オムライスが出来上がった状態で冷凍され、真空パックされている。俺がすることは、これをお湯の鍋の中に入れて温めること。 そして、真空パックの封を切ってお皿に盛ることだけだ。
料理が全くできない俺でもこれくらいはできる。でも、これを料理と呼んではいけないだろう。
「でも、神様。不思議なのは焼いている料理みたいなのになぜ お鍋の中から出てくるかが分かりません」
うん、そうだろうね。俺もその辺りはちょっと説明しにくいなぁ。主に、後ろめたさ的な理由で。
「もしかしてこれも神の御業ですか!?」
神の御業 っていうか、メーカーさんの技術力ってとこか……。
とりあえず、オムライスは2人分作って狭いキッチンのテーブルでふたりで仲良くご飯を食べた。そして、その後お願い入れたコーヒーを出した。
落ち着いたところで俺は話を切り出した。
「るる、先に言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」
「なんですか? 神様」
「それなんだよ、それ」
「え!? どれですか!?」
「その『神様』ってやつ。俺は全然神様でもなんでもないんだ」
割と真剣な口調で言った。これで冗談とはとらえられないだろう。
「またまた〜」
全然ダメだった。
「またまた〜、じゃなくて!」
「私、神様に巫女として村から送り出されましたけど」
「うん、なんか悪いやつに人身御供として出されたみたいな形になって申し訳ない……」
俺の心がダメージ1受けました。
「今も、すごく短い時間でお料理が 出てきました」
「凍食品の勝利です」
ダメージ2。
「村のみんなが 飢え死にしそうなタイミングで現れて、みんなを助けてくれました」
「たまたま行っただけです」
ダメージ3。もういくつかダメージを喰らったら俺、死ぬかも。罪悪感で。
「一口で上が解消する水や 一口で体力が回復する 食べ物をくださいました」
「それは俺にもわからないです」
これはホントに知らん。
「枯れた井戸を、龍神様の家事を沈めて水を戻してくれました」
「 すごい偶然だったから俺もびっくりした」
これも知らん。
「一晩で芽が出る 神様の植物をくださいました」
「ホームセンターで買ってただけなんだよね。俺の手柄ではない」
さあ、全部暴露したぞ。これでルルはがっかりしてくれるはず。
「……でもやっぱり神様です」
「だから違うって。俺は普通の人間なんだよ」
「仮に普通の人間だったとしても、うちの村からすれば神様と何も 変わりません 。あってます」
「……」
彼女の純粋な視線に俺は何も言えなくなった。全てが伝わっているかは微妙だけど、全部話しても俺を慕ってくれているのは分かる。
それを一生懸命否定している俺は、一体なにと戦っているのか。
「じゃあ せめて呼び方を苗字にしようか」
「苗字ですか」
「そう、 俺の名前は 猫柳」
「ネコにゃにゃに」
なんでそこだけ言えないんだよ。
「じゃあ、コーイチで」
「はい、コーイチ様。わかりました、 これからもおそばで お世話させていただきます」
行って帰って、結局ふりだしに戻った……。
そして、 次回からタイトルが『現世界 ニートの俺が 異世界 美少女を扶養することになりました 』に変わります。
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