第30話:ドアの前

「ちょっと! 聞こえてる!?」


 門扉のところで肩を掴まれた。もうこれで、どうしようもない。ギギギ……という擬音が聞こえそうなほど、滑らかじゃない動きで振り返った。


「学校来ないんだって!? どうするの!? これから!」


 振りむいてそこにいるのは佐々木咲。ひらがなでかくと「ささきさき」。間違い探しではないのだけれど、似た字が並ぶ珍しい名前の少女。


『清純派』と呼んでもいいだろう。黒髪ストレートロングで実にお顔が整っていらっしゃる。誰が見ても『美少女』と呼んで差し支えない。


「昨日も来たんだからね! いなかったでしょ!? どこ行ってたの!?」


 この様にめちゃくちゃ絡んでくるので、俺としてはちょっと苦手としている。ちなみに、元さんの孫でもある。


「ごめん、ちょっと人助け……的な?」

「はぁ? おじいさん亡くなって落ち込んでるんじゃないかと思って来てあげたのに。おじいじゃんとお母さんがうちに連れて来なさいって言ってた!」

「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです」


(ボスっ)「いたっ!」


 咲のチョップが俺の脳天にさく裂した。


「どこの宅急便少女なの!?」


 この様にノリと付き合いは良く、ちゃんとツッコミまで果たしてくれるとてもいいヤツではある。そして、家が近所な上に、うちのじいじゃんと元さんが仲がいい関係で、小さい時から彼女と交流があった。


 小さい頃から顔立ちが整っていたので、憧れた時もあった。でも、言ってみれば彼女は『品行方正』であり、『正義の人』なのだ。1年ながら生徒会に入っているのも象徴的だと言える。顔立ち同様に、性格も整っている。


 正しすぎて俺には眩しすぎるというか、彼女が『陽の者』なら、俺は『陰の者』。正反対なので、水と油のように混ざり合うことはない。いっそ混ぜないほうがお互いのためではないだろうか。


「今日、ご飯に来れる?」

「あー……気持ちはありがと。ちょっとやることが……」


 人が作ったものが食べられるのはありがたいし、咲のお母さんの料理は美味しい。でも、俺がご飯を食べに行ってしまうとルルの分をどうしたらいいのか分からない。しばらく、ご飯は辞退させてもらおう。


「……ねぇ。変なことに巻き込まれてないよね?」


 ……今、変なことに巻き込まれている真っ最中です。


「大丈夫だよ」


 俺はできるだけ自然な笑顔で答えた。


「おじいさん亡くなって、大変な時なんだから頼りなさいよね?」

「ありがと」


 相変わらず、いいヤツだ。俺も右手にルル用の女性もの下着を持っていなければ、もっと彼女の方を向いて喋るのだが……。振り向きかけのままでの会話が続いている。


 左手は門扉に手をかけたまま。右手のガサガサ袋の中には女性用パンツが1枚。そんな状況で相手は『正義の人』。きちんと向き合うだけの精神力は俺は持ち合わせてなかった。


「じゃあ、落ち着いたらうちに来て」

「うん……」


咲のこの言葉は親切だと分かっているし、優しさだと分かっているから、俺の中の罪悪感がぶっきらぼうな対応をさせていた。


去っていく咲の背中を見ながら、俺はなにをしているんだろうと思った。右手には女性用パンツを持っている。


ああ、これは、俺が死ねばいいやつだ。


今度こそ門に入り、自宅のドアを開けた。


■お知らせ

先日お知らせした、父が母の年金を盗んだ件で警察署に行ってきました。初めての体験です。


色々あって、生活安全課と刑事課でそれぞれ同じ話をするという……。取調室みたいなところにもはいりました。


あ、年の為に言っときますけど、取り調べではありませんので!事情を話して帰ってきました。それだけで午前中つぶれて……。

色々と精神エネルギーを使い果たした1日でした。


いずれ、小説にそんなシーンを盛り込みたいと思います。

そんなこんなで、今日は短くなってすいません。


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