第29話:お巡りさんこいつです!

「美味しいです!」

「たしかに!」


 苦すぎないコーヒー豆を選んだし、ちゃんと淹れたコーヒーは美味しいのは分かる。


 だけど、ホントに美味しいのだ。かわいい子が淹れたコーヒーってやつか……。


「自分で淹れたからかなぁ? なんか親近感がわきました」


 なるほど。それは一理あるかもしれない。俺はずっと考えていた店の問題の答えを見つけたかもしれない。


 その問題とは、コーヒー豆を挽くのが面倒くさいってこと。手挽きのほうが美味しく感じるけど、毎回挽くのは面倒だし、手が痛くなる。


 機械を使っても味はほとんどが変わらない。じゃあ、いいかって思ってた。


「神様……ここはお店ですか?」


 不意にルルが聞いた。


「そうだよ。俺は稼がないと生きていけないから」

「……」


 ルルがなにか考えてる。神様と思ってた人が、店やってて、稼がないと生きていけないんどからなぁ。


「私……私も、ここで働きたいです!」

「はぁ!?」


 また、予想の斜め上の答えが返ってきたぞ!?


 いや、しかし、かわいい子が店員のほうが客は来そうだ。コーヒーを淹れるのも上手だ。


 ただ、服がいただけない。麻の服で弥生時代感がすごい。


「よし! ルル! 風呂に入ろう!」

「……はい……?」


 ***


 いやあ、大変だった。


 異世界の人にうちの風呂の入り方を教えるの。湯舟は簡単なんだ。入ればいいだけだから。お湯の出し方は何度説明しても驚くばかり。


 コックをひねるとお湯が出るのが当たり前だったから、説明は相当苦労した。


 シャンプーとコンディショナーも説明が大変! これはなんだと聞かれても、俺がよく分かってない! 石鹸的なもの……という曖昧な説明と、手のひらで泡立てて実演して分かってもらったことにした。


 あとは、服。一応、男女兼用の服はあったから、スエットの上下を準備したんだけど、下着がない!


 今のを急いで洗ってもらおうか考えたけど、更に洗濯機の使い方は教えきれない!


 じゃあ、俺が洗おうかと思ったけど、罪悪感がハンパない!


 挙句、異世界の人は下着付けてないことが発覚!


 彼女に風呂の入り方を教えて、身体を洗ってもらってる間に、俺はコンビニに女性用の下着を買いに走ったのだった。


 もう無理! 絶対無理! 異世界の人は現代の風呂に入れない! 世の異世界ものの主人公はヒロインにどうやって説明してるんだよ!


 もっと『お風呂回』について真剣に考えればよかった!


 ***


 ゼエゼエ言いながら帰宅した。こんなに走ったのはいつ以来だろうか。手には女性用の下着。いくら未開封でもお巡りさんに声をかけられたら、納得がいく説明をできる自信がない!


『異世界から来た女の子が今 うちの風呂に入ってるので、上がる前に下着を買って帰る最中です!』って、正直に言ったら一番ヤバい。


 こいつ頭がどうかしてるって思われる。じゃあ、彼女が来たことにするか!? いや、それだと走る必要がない! 


 俺だってなんで走ってるのか分からないんだ。俺の説明でお巡りさんが理解するはずがない! もし、万が一分かったら、答えの錬金術だよ。元々ないのにお巡りさんが理解しちゃうんだから!


 訳の分からないことを考えつつ、俺はなんとか家の玄関が見えるところまでたどり着いた。


 お巡りさんにも会わなかった! 汗だくの高校生が昼間っから走ってるのに近所の人はちょっと引いたかもしれないけど、それくらいなら夕飯時にはもうすっかり忘れているはず!


 俺はやったのだ! 『お約束』に勝った! 万が一、玄関前でお巡りさんに声をかけられても、それはうちの前だから! うちに入ればこっちのものだから!


 門扉に手をかけたところで後ろから声がした。


「コーイチ? なにしてんの?」


 ああ……、ラノベの神様のあほぅ……。どうしてこういう時に限って話しかけられるんだよ!? しかも、この声の主は……。


 俺はお巡りさんに声をかけられたほうが何倍も良かったと思いつつ振り返るのだった。


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