第26話:現世界へのドア

 ルルが世話をやいてくれると言うことで、当然うちに住み込みらしい。これは困った。


「神様! 冬でもないのに氷……これは神の御業でしょうか!?」

「あー、冷蔵庫ってやつだよ。こっち来てみ」

「は、はい……失礼します」


 ルルが恐る恐るカウンター内にに入ってきた。普段、作業をしている台があって、それは冷蔵庫の天板になっているのだ。つまり、作業台の下が冷凍冷蔵庫になってる。


「ほら」


 俺は冷蔵庫の扉を開けて見せた。


「わあっ! 明るい! そして冷たい!」


 新鮮だなぁ。初めて冷蔵庫を見た人ってこうだったんだろうなぁ。


「氷の精霊と光の精霊のご加護でしょうか!? 流石です!」


 ここは異世界だったー! そっちの方に行ったのね!


「いや、これは単なる道具だから……」

「いつも聖霊様が神様のために尽くされているんですね!」


 あー、これしばらく話が通じないやつだ。うーん、あんまり引っ張っても後で恥ずかしいだけだから、いっそのこと家(現世界側)の方を見せるか! 見たら目新しい物はたくさんあるだろうけど、なんとなく理解してもらえそう。


「ルル、こっちに来てみて」


 俺はルルを店の奥の扉へ案内した。そう、現世界へ繋がっている扉へ。


「はい」


 ルルは実に素直にこちらに来た。


 まずは、俺がいつものように扉を通る。ちゃんと来れるかなって思ってルルを見たが、ルルも普通に扉を通ってきた!


 おおー! 異世界人の現世界への降臨だ! 密かに一人でテンションが上がっていた。


「……」


 ルルは扉を普通に通ったけれど、次の瞬間固まったように動かなくなった。


「おっ、おい。大丈夫……か?」


 俺はルルに近寄り周囲でオロオロする。


「あっ、はい。大丈夫……です。」


 しかし、明らかに様子がおかしい。少なくともなにかがあったはず。


「今……頭の中に、なにかたくさんのことが入ってきました……」


 ルルは棒立ちで遠くを見た目をしていた。呆けていたと言ってもいい。


 ただ、ルルの言葉を聞いて気付いたことがある。ルルが話していた言葉……日本語だった。


 異世界特典なのか、異世界側でも特に会話には困らなかった。異世界での言葉が日本語だとは思えないので、仮に『異世界語』としておくか。


 俺はこれまで異世界語を理解して、話した言葉が相手に通じていたことから会話は成立していた。


 しかし、分かるんだ。金髪ブルーアイズやカイは他に誰もいないと日本語を話していた。さすがに、リクやクウがいると変に思われるからか、多分みんな一緒のときは異世界語を話していたはずなのだ。


 それが今、休にルルが日本語を話しているのだ!


「ルル、今 日本語を話していたけど、分かるか?」

「えっと……神の国の言葉ってことですか?」

「神の国の言葉かどうかは分からないけど、普段と違う言葉ってことくらい分かるか?」

「はい……分かりますか。さっき、この扉を通り過ぎた瞬間に色々頭に入ってきました」


 それだけ言うと、ルルはガクンと力が抜けてその場で倒れそうになった。俺は慌ててルルを支えたがすぐには意識は戻らなかった。


 しょうがないので、ルルを自分の部屋につれていき、ベッドに寝かせた。意識が戻るまで俺はコーヒーを淹れる準備をした。

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