第25話:喫茶店にて

「って、だから、なんでいるんだよ!?」


 そうなのだ。ルルが喫茶店にいる。なんでもなにも俺がキャノピーに乗せて連れてきた。俺自身が! 長い、ながーいノリツッコミみたいになってしまっている。


 とりあえず、俺は喫茶店(異世界側)に戻ってきた。幸か不幸か客は誰もいない。まあ、予告もなく数日休みにしてしまったのだ。来ている方がおかしいんだけど。


「ここが神様のお住まいですか?」

「神様?」

「あ、いえ。コーイチ様のお住まいですか?」


 なんか、まだこの子は俺のこと神様だと勘違いしている節がある。村に物資は持っていったし、何度か往復したし、助けようとしたのは本当だ。でも、それ以上 何かができる訳じゃないし、居心地の悪さから言えば、そろそろ分かってほしい。


 あと、最後に物資を取るために出かけるときに、俺がちゃんと帰ってくるから疑ってたから、渡していたスマホはちゃんと返してもらったけど、『魂の器をお返しします』と言われたあれは何だったのか。


 謎なことは多いけど、ここが異世界だと思ったら、ある程度はスルーすべきだと思うし、どこまで突っ込んでいいのか線引きが難しいのだ。


 例えば、夜には月が出る。でも、現世界の日本と違って月は2つあるし、いちいち言ってたらキリがないのだ。


「何か必要?」

「いえ、私は特に……」

「……」

「……」


 なんだ、この間は。


 まあ、せっかく来てくれたんだから、ちょっと喜びそうなもんでも出すか。


 そう考えて、カウンター下の台下冷蔵庫から100パーセントオレンジジュースのパックを取り出した。封を切ってコップに移す。氷も2、3個入れて、ストローをさして……。



「はい、座って飲んで」


 俺はオレンジジュースのコップをカウンターの上に置いた。


「あ、飲み物なら私が……」

「いいっていいって。もう入れちゃったから、飲んで」

「はい、ありがとうございます」


 ルルはきょろきょろ店内を見ていたから、カウンターの上のコップを見て慌てていた。


「! 冷たい!?」


 ルルはオレンジジュースが冷たいことに驚いていた。もしかしたら、異世界では氷が珍しいってパターンだろうか……。この店には冷凍庫があるから氷は無尽蔵に作れる。


「あの……これどうやって……?」


 ルルはコップを少し持ち上げたり、横からのぞいたりしていた。どうやら、ストローが分からないらしい。分からないかなぁと思って、普通は袋に入ったままストローは提供しているのを、わざわざ封を切ってコップにさして出したのに……。俺の配慮不足だな、これは。完全に。


「こうやって飲むんだよ」


 俺は自分用に用意したオレンジジュースにもストローをさして飲んでみせた。


「甘い! 甘いです!」

「そりゃ良かったな」


 ルルさんオレンジジュースの飲み方マスター……と。文化レベルに差がありすぎると、一つ一つ驚かれてこっちは疲れそうだな。


 なんか友達にスマホの新しい機能について聞かれるのの延長みたいに俺は少し楽しみながら、少し謎の優越感を感じながらルルに答えていた。


「ところで、ここには何をしに来たんだっけ?」


 カウンターの席に座ってオレンジジュースを飲むルルに話しかけた。食料が足りなくなるようだったら、あと数回くらいは運んでもいいし、食べられる実がなる植物の種ならホームセンターに行って買ってきて届けてもいい。なんと言われても答えられる、ちょっと余裕の質問だった。


「ここで、神様のお世話をさせていただきたいです!」


 ……。しばらく思考が追いつかなかった。


「え? どういうこと?」

「私が巫女として一生かけて神様のお世話をさせていただきます!」


 益々訳が分からない。頭の中ではBGMとして巫女巫女ナースが流れているので、余計に俺の思考がまとまるのを邪魔している。


「お父さん、父から言われました。龍神様の怒りを解き、村を救ってくださった神様のお世話をしなさいって」

「はあ……」

「私もお世話させていただきたいので、私からも父にお願いしました。それでここまで……。最初は分からないことも多いですが、よろしくお願いします!」


 ルルが立ち上がり頭を下げて言った。女の子にこんなに一生懸命お願いされることなんてないので俺は慌てていたと思う。色々考えずに答えていた。


「よろしくお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る