第23話:神の帰宅

「お父さん、コーイチ様が村を和出られます!」

「うむ、きちんと戻って来て欲しいものだが……」


 コーイチが食材を調達に行くために村を出るタイミングで、親子は幾ばくかの不安を抱えていた。龍神様の怒りをかって村は壊滅の危機だった。


 最初は水だった。村中の井戸が干上がり、作物にやる水もなくなった。村長はすぐに水の調達に動き始めたが、村の近くに水源は無かった。昔は川があり、そのため村になったのだが、いつしか川の周辺は森に飲み込まれた。


 森には危険な魔物が住むことから、そこに立ち入ろうという村人はいない。


 そのため、いつしか井戸は重要なライフラインとなっていた。川まで水を汲みにいかなくていい上、本来豊富な水があったため備蓄の必要性など考えもなかったのだ。


 近くの村や町まで片道1週間ほど。助けを求めに行った者はいるが、十分な食料もないまま出たのでまだ生きているか……。


 村長は食料の備蓄はしていたので、すぐに村人に配布した。しかし、村長の家に備蓄していた保存食の量なんて高が知れている。100人近い村人が食べるのだから、いくら節約しても数日しか持たない。


 人間水がないと動けなくなるまで早かった。もはや助けを呼びに行く余裕すらなかった。後は朽ちていくだけ……。


 そこにコーイチが現れたのだった。大量の飲み物と食べ物を持って。


「お父さん、やっぱりコーイチ様は神様だと思う?」

「それは当り前だろう。あのタイミングで偶然来ることなどあり得ない」

「やっぱり、そうだよね」


 村長は村の長として信頼された人物だった。弱いものに水と食料を優先して渡したので被害はこの程度だった。仮に尊重が保身に走り、食料を占有してしまったら、村人のほとんどが死に絶えていただろう。


「しかし、神様だ。これだけ村に奇跡を起こしたらもう、帰ってこないかもしれないな」


 そう、コーイチは絶妙なタイミングで現れ、村人に水分を与えていった。その水は不思議で死にかけていた村人を一口で潤わせた。更に、もらった食べ物は一口で空腹を解消し、寝なくても疲れない不思議な食べ物だった。


「それだけじゃないの!」

「そうだな……」


 ルルの目の前で干上がっていた井戸を水でいっぱいにしたのだ。しかも、村中の全部の井戸を。


 更に、1日で芽が出て、翌日には弦が伸びる植物も与えた。恐らく数日後には収穫できる勢いだったりルルにしてみれば、育った未来を見せられたと言っていたが、これは単に写真を見せられただけである。


「コーイチ様はこんな物を置いて行かれました」


 ルルは懐からコーイチが置いていったスマホを取り出した。


「なんだろう? 板だが、この世の物ではないことだけは分かるな」

「うん。こんな大事なものを置いていったってことは、帰ってきてくださるかしら」

「そうだな」


 ルルは無意識に電源ボタンに触れた。それと同時にスクリーンセイバーが解除になった。普段、誰も彼のスマホに触らないので、コーイチはロックすら解除していた。


「お父さんこれ! 模様が変わった!」

「ホントだ!」


 画面にはたまたま最近撮った画像が次々と切り替わり表示された。別に特別なことではなかった。スマホの基本機能で手軽に思い出の画像を見れるようになっていただけ。


 そこには、村の風景や村人、そして、ルルの画像が音楽と共に表示された。


「お父さん! これは、コーイチ様の記憶じゃ!?」

「神様の魂の器とは! これはまたすごいものを置いていかれた!」


 ルルはここで唇をきゅっと結び、決意した表情をして言った。


「こんな大切なものを預けてくださった……。お父さん」

「なんだい?」


 ルルは視線を上げて父を見て言った。


「あのこと……私、引き受けます」


 彼女の視線には強い意思が込められていた。、

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