第21話:異世界なのか異常世界なのか

 この村に来て2日、理解できないことは多い。1つ1つ頭の中を整理していこうと思う。


 まずは、この村の人は敵対的ではない。俺はすごく歓迎されていた。目の前で宴が続いているけど、年配者の歌、詩吟みたいなの、若い女の子は3人で踊りを見せてくれた。歓迎の気持ちがすごく伝わってきた。


 それでもずっとそれらを見ていたら疲れてくる。トイレに行くと言って席を立ち、家の裏を軽く散歩していると家の裏には井戸があった。ポンプも無く、古い井戸で桶を落として定滑車にかけられた紐を引っ張るタイプだ。


 異世界のお約束として、ポンプを持込み井戸に革命を起こすイベントがある。俺もそれやりたい。


「水はあるんだ……」


 そんな事を考えながら、俺は井戸をのぞきこんだ。


「今年に入ってから水が干上がってしまって、今ではもう出ないんです」

「わあっ!びっくりした!」

「すいません……」 


 気づけば、ルルという第一村人が後ろに立っていた。少し申し訳なさそうに。監視だろうか。


「どうしたの?」

「父がおそばにと」


 やっぱり監視だろうか。


「あの……、改めて……本当にありがとうございます。この村を救ってくださって」


 ルルが頭を深々と下げてお礼を言った。


「いいよいいよ、ホントにたまたまだから」


 そこまで言われる程の事はしていないので、逆に恐縮した。しかも、こっちはどこか隅の方でこっそり自給自足でいけないか偵察に来たくらいなので。


「この村は龍神様の怒りをかったみたいで水が干上がり、村人全員が全滅するところでした」

「何か原因が?」

「いえ……ただ、今年は干ばつで作物が採れなくて、神様への奉納も満足にできなくて……」


 神様も大事だけど、まず生きてる人間が優先だろう。神とは概念と言うか、心の拠り所みたいなものなので、直接助けてくれたりはしない。


「あと……助けられなかった人もいたし……」

「それは……もう年寄りで元々そんなに元気ではなかったので……」


 ルルは慰めてくれているのだろうか。


「それにしても、みんなすごい回復だね」


 異世界では普通のことだろうか。


「コーイチ様のおかげです」


 ルルが再び深々と頭を下げた。正直、ここまでされるのはかえって居心地が悪い。手持ち無沙汰に井戸の紐を引っ張って桶を引上げた。


 この世界では、桶ってどんな作りになっているのかも見たかった。何より居心地が悪いのは、目の前のルルの表情が好意100パーセントって感じだから。そんなにすごい事をした訳じゃないし。


「あの……コーイチ様はずっと村に居てもらえるのでしょうか?」

「えっ!?」


 いやいやいや。ずっととかいないから。ルルの急な言葉に慌てて紐を持つ手が滑った。


 当然重力に従って桶は井戸の穴の底に落ちて行った。


(カコーン)


 いい音がしてしまった……。


「ごめん……。桶が壊れてなければいいけど……」

「いえ、どうせもう水も出てませんし……」


 ルルが紐を引っ張り始めた。


「あれ? あれっ?」


 何か手応えがおかしいみたいで、ルルが焦りながら紐を引いている。やっぱり桶は穴の底で壊れてしまったのか!?


(ザバーっ)


 ルルが桶を引き上げると、桶には水があり、地面に流してみせた。


「こんな……」

「水!?」


 次の瞬間、ルルが片膝を地面について瞳を閉じて顔を伏せた。


「え?」

「コーイチ様、龍神様の怒りも鎮めてくださり、ありがとうございます」

「いや、俺はなにも……」


 そう言うや否や、ルルは立ち上がって家の方に走っていく。


「お父さーん! コーイチ様がー!」


 いやいやいや! イタズラしたのを親に言いつけに行くみたいにっ!


 その後、俺はまた村長の家に連れ戻されて、ひたすら「歓迎の儀」をされ続けた。そして、異常な事はまだまだ続く。

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