第20話:宴

「わはははは! ようこそハジ村へ!」


 俺はなぜか接待を受けている。


「神様がおられるとは! この村も安泰です!」

「ありがとうございました!」


 ポカリを持って行って第一村人に飲ませたのが夜……と言うより夜中。そこから村に行って、30数件の家々を回って倒れている人にポカリを渡していたら、最後の大きな家に行く頃には外は明るくなっていた。


 村にはほぼ食べ物は失くなっていたらしい。こちらも食べ物を持ってきているとはいっても、キャノピーに乗るだけしか乗せてなかった。山で遭難した時様にチョコとかはたくさん持ってきていたけど……。それでも、100人で食べていたらとても足りない。


 俺は早朝から喫茶店に行って、もう1回食料を詰めるだけ積んで持ってきた感じだ。明るくなってからだったのか、遠足は帰りは早く着く気がする効果なのか、比較的早く帰り着き、再度あの村に訪問している次第です。


 とにかく家にある食べ物と言う食べ物を持ってきた。そして、うちの近所の朝から開いてるスーパーでも食材を仕入れてきた。


「どれも見たことがない食べ物ですな!」

「さすが神様!」

「神の国の食べ物という訳ですか」


 最後の大きな言えば村長の家だったらしく、その村長も驚くほどのスピードで回復していた。食べ物を持ってきたら、その食べ物も使って歓迎の宴を開いてくれているらしい。


 盃のような器にポカリを注ぐのはとても違和感がある。それでも、その杯を老若男女酌み交わしている。さすがに村長の家に人は入りきらないので、庭まで使っての大イベントとなっている。


 そして、俺は一段高い位置に木の切り株を使った椅子に座らされ、隣にはあの第一村人の少女が座っている。昨日は麻の荒い生地の服を着ていた気がしたけど、今日は白くて目の細かい絹みたいな薄い布を羽織っている。


 俺も杯っぽい器を持たされて、横のあの少女がポカリを注いでくれる。


 もう、カオスすぎて何が起こっているのかついていけないでいた。村人の回復の速さが異常だと思うし、昨日までほぼ全員瀕死状態だったのに今日は宴を開いている。


「改めまして、神様……村長のギギーでございます」


 木の切り株の椅子の前に村長が片膝で座った。なんとなく、中世の騎士が敬意をもって座っているのに似ているから、しゃべり方なども含めて歓迎されているらしい。まあ、たくさん食べ物持ってきたしね。


「みなさん、大丈夫でしたか?」

「はい、村が全滅する危機でした。助けてくださり本当にありがとうございました」


 村長以下、全村人が村長のように片膝で座って頭を垂れた。それは庭にいる村人も含め全員だった。横の第一村人の少女は胸のあたりで手のひらを交差させて、目を伏せている。こっちの方が、神様っぽいけど……。


「みなさん、頭を上げてください。俺はなり……」


 なりゆきで助けたはまずいだろうか。


「俺はたまたま通りかかっただけで……」


 そこまで行ったことろで、ずいっと村長が片膝のまま半歩前に出た。


「これだけの食べ物を一人で運べるはずがありません。しかも、水は一口飲めば瀕死の者もたちまち回復し、空腹の者もひとかけで体力が回復する食べ物も施してくださいました」


 ポカリ効きすぎじゃね!? チョコもなんかヤバい物入ってない!?


「寝なくてもエネルギーがみなぎってるぜ!」

「そうだそうだ!」


 村人たちが騒ぎ始めた。なにこの一体感。そして、俺だけその中に入れない感じ……。


「お礼に娘のルルに世話をさせます。存分におくつろぎください」


 横を見ると、第一村人の少女がほほを赤くして目をそらした。恥じらっているようにも見える。そこそこの食べ物と飲み物を持ってきたとは思うけど、言ってもキャノピー2回分。そんなに大量ってほどでもない。


 それだけで、少女にお酌をしてもらえるなら安いものか。ポカリだけど。


 その少女をよく見てみると、中々に整った顔立ちをしていた。昨日見た時は頬までこけてガリガリだと思っていたのに。


「ルルって言うの?」


 俺は横の少女に話しかけてみた。


「はい、神様」

「あ、俺は神様じゃなくて、猫柳晃市って言うんだ」

「ネホヤガギ……」


 少女は俺の名前は呼びにくいらしい。なぜか言葉は分かるんだけど、異世界特典の自動通訳的な物だとしたら、名前なんかは変換できないし、不具合が起きるのかもしれない。


「コーイチ。コーイチって言える?」

「コー……ヒチ……様」

「惜しい! コーイチね」

「コー……イチ様?」

「そうそう! 言えてる言えてる!」


 少女に名前を呼んでもらえたのだった。不思議なことは多いのだけど、ここは異世界だ。俺の中の謎の順応性で色々ツッコまずに状況把握から始めることとした。そして、俺はこれからしばらくこの村から離れられなくなるのだった。

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