第15話:単なる庭でも発見はある
コーイチは、先ほど金髪ブルーアイズに貸すために自宅の庭の倉庫に久々に入った。実は庭自体久々に行ったのだが、庭には雑草がほぼなかったのだ。
これはおそらく祖父が定期的に手入れをしていたことを示していた。
「じいちゃん、日々手入れしてくれていたんだな……。俺はそんなことも気づかなかった……」
コーイチは少し感傷的になってつぶやいていた。その声は誰にも届かないのに。庭に来たのは感傷に浸るためではなかった。先ほど倉庫内を見た時に、良いものを発見したと思っていたからだ。
「たしかこっちに……」
さっきはチラリと視界に入っただけだったので、ちゃんと使えるかどうかは分からない。
そこで発見した物は一台の原付だった。
原付……原動機付自転車。それは高校生でも免許さえ取得すれば合法的に乗ることができる乗り物だ。
しかし、コーイチは免許などない。それでも、それは日本での話。つまり現世界の話だ。
これが、異世界では現世界の法律は及ばない。合法的に原付を乗り回していいということになる。
コーイチはとりあえず、その原付を庭の広いところに引っ張り出してきた。形状としては屋根が付いているタイプのもので、ピザ屋さんが配達などに使っている『キャノピー』と言う車種だった。
これは、祖父が一時期配達もやっていて、祖父が乗ったり、当時はいたアルバイト配達員が乗ったりしていたもので、最近ではその存在を忘れていたものであった。
免許自体は持っていないが、ボタン一つでエンジンがかかることは、祖父や当時のアルバイトがやっているのを見て知っていた。
また、調子が悪いこともあったので、一般的なメンテナンスについてもおぼろげながらの知識は持っていた。
それだけでは、到底メンテナンスなどできないし、そもそも何をしたらいいのか分からない。そこで、コーイチはネットで検索し、『原付き メンテ』とか『キャノピー 久々に運転』などと入れて出た結果の動画を見て知識を得た。
これは、よくある異世界ものの物語なら主人公はすでに知っていることになっているようなことだろう。異世界ではインターネットなどないので、設定上すでに知っていないとお話が成立しないのだ。
ただ、コーイチはここで思った。そんな事を事前に調べておいて、すでに知っていることなんてほとんどない、と。それを考えてもつくづく自分は主人公にはなれないな、と感じるのだった。
コーイチは調べた知識を元に、メンテを開始した。きっと ガソリンは腐ってると思うから、 ガソリンタンクの蓋を開けて 灯油ポンプを突っ込んで 腐ってるガソリンを全部 吸い出した。これもネットでさっき知った知識だ。
さすがに出てきた液体は真っ黒になっていて、これはダメだと素人のコーイチでも 一目見て分かった。ホームセンターで買った携行缶に ガソリンを買ってきて 原付に給油した。
ちなみに、携行缶とはガソリンを保管できる専用の金属製の容器だ。ガソリンは揮発性が高く、普通の容器に保管して空気中に漏れ出た場合大事故になる。そこで、法律的に適合した専用の容器が販売されているのだ。車に積んで運ぶ場合、金属容器は22Lが法定内最大量なので、20Lの物が多く販売されている。
法律上は個人で携行缶に給油するのは NG らしい。だだ、実際にスタンドにいくと、身分証明書を提示して用途を書けば店員が給油してくれるところもある。
コーイチは スタンド 2つで断られた。それは、彼が未成年であることも関係しているかもしれない。
ただ 普通に買えるとこもあった。セルフのスタンドでもその裏には人間がいて、車種と油種をチェックしている。ガソリンが出るまでにタイムラグがあるのはそのためだ。人がやっている以上、いい加減なところは必ずあるのだ。
コーイチはそうして手に入れたガソリンをキャノピーに入れて、 セルを回すけど セルは回らない。全くキュルキュル音がしなかったのだ。あんなに苦労して手に入れたガソリンだったが、それでもキャノピーは動かない。
多分 、バッテリーが上がってるんだと思い、新たに動画で知識を得た。 再び ホームセンターに行って、今度は原付用のバッテリーを買ってきた。
見様見真似でバッテリーを交換し、ボタンを押すと、キュルキュルと音はするようになったものの、 何回セルを回しても エンジンはかからない 。
ご都合主義の物語なら、すでにこのバイクは動くようになっているのだろうが、数年放置したバイクはそうやすやすと動いてくれないのが現実なのだ。
そのうちまた バッテリーが上がってしまうことを恐れて、コーイチはキックレバーを出して キックでエンジンをかけ始めるかけることにした。 セルモーターっていうのは言ってみれは、 一瞬だけモーターを回す みたいなもの 。ずっとやっていればいつかは電池切れ、すなわちバッテリー上がりを起こす。
それでキックの代わりにエンジンをかけている んだけど、エンジンがかからない 以上 何回も セルを回すと段々バッテリーに充電された電気がなくなっていく。
何回くらい回せるかわからないが全然エンジンがかからないので バッテリーが上がったら充電するか 、また新しいのを買ってくる必要があった。
どっちにしても すごく 面倒だとコーイチは思っていた。
何度も何度もキックを続けて、10分以上経過したとき、エンジンはかかった。
エンジンの燃焼室内にも あの 黒い ガソリンが入ってたのか、 全然エンジンがかからなかったのだと思われる。
次第に 少し ガソリンが入れ替わったのか 、プスンというようになり、繰り返すうちにやっとブオンという音とともにエンジンがかかったのだ。
「やったーーーーっ!」
実際に経験した者しか分からないこの達成感。なにか人生の大きな問題を解決したような気になるが、実は原チャのエンジンがかかっただけなのだ。誰ともこの感動は共有できない。
それでも、一度エンジンがかかればこっちのもので、 安定して エンジンは回転しているようだ。
途中で止まると怖いので一応 そこら辺で走行テストをしたいところ。
しかし、コーイチは免許を持っていない。 しかも、 原付乗るのも これが初めてなので こっちの世界で乗ることはできなかった。
そこで、キャノピーを押して厨房に入り、例の扉から 異世界 側の 店へ通り、異世界側の店外へ出た。
このチュウカンという町は 一目で 日本じゃないってわかるぐらい 異世界観 たっぷりだった。 建物の壁が外壁ボードとかではなく、 土を固めたみたいなレンガで組み上げられていた。
コーイチは本気で体当たりしたら壁を崩せる自信があった。それくらい見た目は脆そうだった。
どうもこの店は町の外れにあるみたいで、 店から少し離れただけですぐ荒れた原っぱみたいなところにでた。
たしかに、金髪 ブルーアイズが言ってたみたいに除草の必要はありそうだ。そこらじゅうは荒れ放題。草は生え放題だった。しかし、今はキャノピーが優先。
コーイチはこのキャノピーを使って近くの村に向かいたいと考えていたのだ。
■
急に三人称に切り替えてみました。
コーイチすらも知らない情報を詰め込みたくなったので。ぜひ感想をお聞かせください(^_^)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます