第12話:騒がしい店内

「この料理をもっとよこせっ! ちまちま切るのではなく、もっとデカいものを!」


 俺が金髪ブルーアイズと両手に花(今はクウのみ)のカイにカレーを出したタイミングだった。ライオンマスクが立ち上がって叫んだ。


「店主! そこにあるその肉を全部出してくれ! カネは払う!」

「あっ、えっ、えっと……」

「これほどの肉が手に入らないのは分かる! よし! 言い値を払おう! 全部焼いてくれ」


 俺がオロオロしていると、カウンターの金髪ブルーアイズがカレーを食べながらフォローしてくれた。


「この辺じゃ、そんな肉はしばらく手に入らない。食べられるときに食べとこってことだろ。焼いてやれよ」

「え? あ、はい」


 別に肉を出し渋ったわけじゃない。これでいいのって言う自信の無さからのリアクションだった。


「味は3種類あるのか! 肉は3つに分けて全部の味を準備してくれ」

「あ、はい。十分焼きたいのでスライスにしても良いでしょうか? その方が早く提供できますし」

「構わん! とにかくその塊を全部焼いてくれ!」

「かしこまりました!」


 ライオンって豚食べるんだっけ? そんな事を考えつつ、俺は買ってきた肉の塊を1cmほどの厚さに切り、次々焼いた。


 塩コショウは割とすぐ焼ける。焼きながら塩コショウを振るだけだから。焼肉のタレは、少し漬けてから焼いた。生姜焼きのタレも下味の意味でもう少し漬けてから焼いてみた。


「うまい! うまいぞ! 明日の出撃の前にこんな飯にありつけるとは! 神のご加護か! ゴザーラ様感謝します!」


 ライオンマスクがうるさい。なんか顔以外は英国紳士のように静かなイメージだったのに、肉を口にしてから眠っていた野生が目覚めたのか声がでかいんだよ。


「軍は明日から出撃らしいから……腹ごしらえしときたかったんだろ……うまい。カレーうまい」


 いや、金髪ブルーアイズもうるさかった。口の周りにカレー付いてるし! ぱっと見西洋人的な、しかも割とイケメンで爽やかな外見なのに、カレーをカウンターでかっくらってる。しかも、口の周りにカレーが付いてる。違和感が半端ない。中身は日本人ってことだから、カレーに目が無いのかな。


「やっぱ、今年の不作は深刻だからな! ……んぐんぐ、ちゃんとした飯が食えるのが不思議だ……うまい! しかもカレーだよ! なつかしい! うまい! 懐かしうまい!」


 やっぱ、カイもうるさかった。俺は静かに暮らしたいのだから、店も静かでいいんだけど。カイは転移者だから見た目も日本人。カレー大好きでも違和感はない。違和感の話で言えば、両脇の女の子(今日はクウのみ)が西洋的な顔立ちなので、違和感はあるんだけど。


「カイ、あんたリクに働かせて、自分だけカレー食べにきたんでしょ!」

「ばか! リクにはカレー2杯食べていいって言ったら、あと2匹は魔物を狩ってから帰るって残ったんだよ!」


 カオスだ。店の中の客が料理に夢中だ。夢中すぎる。食べながら話をしている。小さい頃に食べながら話をしたらダメってお母さんに習わなかったのだろうか。いや、ここは異世界。全ての常識は現世界と異なる可能性はある。でも、こいつら二人は日本人。現世界のヤツじゃないか。いや、こちらにとっては現世界が異世界で……ちょっと頭がこんがらがってきた。


「他のヤツもまだいたから一人で残してきた訳じゃない。危険はないよ」


 カイはカレーを食べる手は止めず話を続けた。


「お前こそ一人で先に帰りやがって」

「私は朝から狩りまくったから早めに上がっただけよ! ここんとこ体の調子が良いのよ!」


 店内が騒がしいのはあまり喜ばしいことじゃない。ぼちぼち注意すべきか……


(カランコロンカーン)「カレー!」


 ドアにリクという少女が飛び込んできた。今話題になっていた両手に花のカイの花の片割れだ。


「いやー、狩った狩った!」


 カウンターのカイの横にドカリと座った。俺としては、まだ店を始めたという実感もないため、知らない人がズカズカ店に入っていることに違和感を持っている。でも、カレーに関してはお金ももらってしまったし店っぽくしないといけないと思っているし、店員っぽく振舞わないといけないと思っている。


 炊飯器には割と炊き立てのご飯が炊けている。計りの上にカレー皿を置いて、『ゼロリセット』のボタンを押すと、皿を載せているにも関わらず、表示は『0g』となる。その上で、カレー用の皿にご飯を適量よそう。これでご飯だけの量が計れる。知らなかったけど、計りって便利だな。


 ご飯は色々やってみたけど、300gくらいが食べ応えがあるようだ。ご飯なんて適当な量を注げばいいと思っていたけど、少ないと申し訳ない。かといって、量を増やしていったらどこまでも増え続けてデカ盛りの店になってしまう。デジタル計りはここでも役に立つみたいだった。


 カレーのルーは分かりやすい。レトルトの袋1つを全部かける。市販のカレールーの多くは180gくらいらしい。俺が買ったものは5個セットで売られているやつで、野菜はほとんど形が残っていないタイプだ。


 サラダは、千切りキャベツをスーパーで買って来ているだけなので、俺は千切りすらもしていない。……と言うかできない。俺が切ると千切りどころか、百切りか、十切りになってしまいそうなのだ。ドレッシングは初回は普通に家の冷蔵庫にあったやつだったけど、その後は業務用の食材の店「ファティ」で買ってきたものだ。ちなみに、フレーバーは玉ねぎ。


「お待たせしましたカレーです」

「来た来たー!」


 ガツガツと食べ始めるリク。こうなるとキレンジャーだ。キレンジャーが分からない人はお父さんとお母さんに聞いてみよう。YouTubeで見てもいいけどね。



 5人がけのカウンターに3人座ってくれたらまあまあ席は埋まっている様に見える。店として、メニューがカレーとコーヒーしかないんだけど……。ただ、元さんに教えてもらったコーヒーの淹れ方を披露するタイミングが無い。すっかりカレー屋になってるのだ。しかも、レトルトカレーの店。


 どこかにインスタントラーメンの粉スープのラーメン屋があったって聞いたことがあるけど、俺はもっとひどい。メインたるカレーがレトルトなのだから。


 さて、ある程度カウンターの四人が落ち着いたみたいだから情報取りしてみるか。


「あのー……目の前の状況を確認したいのですが……」

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