第11話:ライオンの戦士

「邪魔するぞ」


 店に客が入ってきた。


「いらっ……おわっ!」


 客の方を見て、3つの理由で俺は驚いてしまった。


 一つ目の理由は、客といえばどうせ金髪ブルーアイズか両手に花のカイだと思いこんでいたからだ。入ってきた客はそのどちらでもなかったのだ。


 2つめの理由は、その客ってのがライオンだったから! 首から上はライオン。もちろん、タテガミもある! 二足歩行で鎧みたいのを着てる! 日本の鎧とも西洋の鎧とも違うけど、とにかく鎧ってわかる!


「ラッ、ライオンっ!」


 慌てる俺。無反応なクウ。『騒がしい店だのう』ってリアクションの客。その客の顔がライオンなんだよ! 絶対驚くだろ!


「な、なあ。……じゃなかった、あの……」


 俺はカウンターのクウに静かに話しかけた。


「どうしたの?」

「あのお客さん……」

「んー?」


 そう言って振り返るクウ。いや、カレーに熱中しとったんかーい! あれ見たらひっくり返って驚くぞ!


「ダイラエルングピーグじゃん、こんな庶民的な店に珍しいね」


 クウはこっちに向き直ってこっそり言った。ダイ……名前? それ名前なの? 慌てないってことは普通なのか!? あれは、普通なのか!?


 そもそも異世界ものって異世界って言いながら「リーゼ」とか「ダイアン」とか英語圏の名前が多いじゃん! 聞いたことない名前って反則じゃない!?


「あれ? あんた獣人は初めてとか?」

「ジュウジン……!?」

「えーっと……」


(ドタドタドタドタドタドタ……)


 クウが説明してくれている最中に、遠くから走ってくる音が聞こえる。


(バーン!)「「カレー!!」」


 騒がしいく、店に飛び込んできたのは、金髪ブルーアイズと両手に花のカイ。競うようにして店に文字通り飛び込んできた。


「おい! カレーだ! カレーを!」

「俺の方が先だ! 大盛り!」


 なんだよ、こいつら仲いいな。さっきのライオンは席について静かに目を閉じている。まるで瞑想でもしているみたいに。


 あ! いかん! 水! お冷や! あまりの事にお冷を出すのを忘れていた。俺は慌てて準備してライオンマスクのところにお冷を持っていった。


「いや、私は頼んでいないが?」


 お冷を断られた!?


「あ、ダイラ様、この店では水はタダなんですよ」

「なんだと!?」


 金髪ブルーアイズがライオンマスクに話しかけた。


 え? お冷ってタダでしょ!? そう言えば、海外とかちょっといい店では有料のとこもあるって聞いたことがあるな。


「ありがとうございます」


 ライオンマスクがいるし、俺は一応金髪ブルーアイズにお礼を言った。


「当店はお冷は無料です。お代わりもありますのでお申し付けください」

「なんと! 客が押し寄せたらどうするんだ?」

「何人でも喜んでお受けします」


 日本では水はタダだし、水道から出たものを普通に飲める。海外は違うみたいだから、異世界でも水は煮沸して飲んだりしてるのかな?


「それよりも、店主。この匂いはなんだ?」


 この匂いって、店内には豚肉を焼いた匂いでいっぱいだった。肉焼くと油は跳ねるし、匂いは充満するし、あんまりよくないな。


 カレーはレトルトだから仕込みはないので、カレーの匂いはしないし。


「すいません、試作で肉を焼いてました。すぐに窓を全開にしますね」

「いや、その匂いに釣られて入ってきたのだ。その料理を出してもらえないだろうか」

「はい……それは構いませんが、単に肉を焼いただけですよ?」

「構わん」

「かしこまりました」


 えー、豚肉焼くだけの料理ー? しかも、豚肉だよ? 牛肉ならまだしも。出すの? お客さんにぃー? めちゃくちゃ抵抗あるんだけど……。


「俺のカレーも!」

「俺のカレー大盛りも!」


 金髪ブルーアイズも両手に花のカイもカウンターにかぶり付いてうるさい。


「はーい、ただいまー」


 カレーについては、俺の中で折り合いがついた。レトルトのパックをお湯を沸かした寸胴にドボン。これで、1分ほどで温まる。レトルトの袋をもう隠したりしない。面倒だし。


 豚肉はライオンマスクの体の大きさも考えてちょっと多めに切り出した。塩コショウで焼いたのと、焼肉のタレで焼いたのと、生姜焼きのタレで焼いたのと3種類作ることにした。


 豚肉のサイコロステーキって、俺は今まで見たことない。この料理の名前はなんて名前だろう? 異世界料理ってことにしたらセーフかなぁ?


「お待たせしました」

「うむ」 

「まだ試作なので、食べて感想を聞かせてください。お代は結構ですので」

「なんと!」


 皿に載せて、一応ガロニって付け合せの野菜(冷凍)を焼いたものも付けて、フォークとナイフも一緒に出した。


 さすがにこの素人料理ではお金は取れない。匂いを気に入ってくれたみたいだけど、味わったらがっかりして帰ってくれるだろう。


 タレとかガロニとかって、先日業務用食材の店に行ったときに爆買いしたやつだ。


「これはフォークか。珍しい形をしとるな……。こっちはナイフか、刃が波打っておるとは……」


 ライオンマスクはしばらくナイフとフォークをしげしげと見てから食べ始めた。フォークは普通の三股のフォーク、ナイフは肉が切りやすいように刃にギザギザが付いているタイプ。いずれも、元々店にあったものを洗って使っている。


(ガタン!)


 ライオンマスクは肉を1切れ口に放り込むや否や立ち上がった。しまった! やっぱり店で出すには完成度が低かったか! 無料でいいって言ったのに! 怒っちゃったか!?

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