第8話:コーヒーの味

「マジか! ほんとにコーヒーだ! しかもうまい!」


 最初に声を上げたのは、両手に花のカイだ。


「これが異世界で飲めるなんて!」


 すごく感動してくれている。両脇の美少女(多分、リクとクウ)はいぶかしげな表情をしていたり、顔をしかめていたりしている。多分、あの二人はこっちの人間だな。

 そして、初めてコーヒーを飲んだのではないだろうか。


「前回より格段にうまくなってる!」


 今度は金髪ブルーアイズが感想を言った。


「ありがとうございます」

「いや、うまい! 完全にコーヒーだ!」


 完全【に】コーヒーではなく、完全【な】コーヒーと言ってほしかった。1字違いで全然違う意味になる。日本語って難しいぜ。


「これがお前のスキルか……すごいな」

「いや、マジで感動! コーヒー飲みたかった!」


 金髪ブルーアイズもカイも喜んでくれている。何とか頑張った甲斐があったというものだ。


「俺のスキルはこれだけじゃありません。この店のコンセント、スマホを充電できます」

「マジか!?」


 反応したのはカイだった。話を聞いたらすぐにスマホを懐から取り出した。


「充電ケーブルも一通りのコネクタ形状は取り揃えています」

「マジか!?」


 めちゃくちゃ驚いてくれているけど、美少女のリクとクウが置いてけぼりだ。それでも怒らないんだろうなぁ。いいなぁ、そんなスキルが俺は欲しい。


(フォン……)「マジだ! 充電始まった! この世界で初日に充電切れて困ってたのに!」


 そりゃあ、バッテリーもそんなに持たないだろうし、アンテナも立たないだろうから、バッテリーの減りは早いはず。バッテリーは電波が入らないと、なんとか電波を探すので、早くバッテリーが切れるんだってじいちゃんが言ってた。


「しかも、この店の中だけ、電波が届きます」

「「なぁにぃーーー!」」


 金髪ブルーアイズと両手に花カイの声が再びハモった。ちょっとコントみたいになってきてるんだけど……。二人ともカウンターのところまできてかぶりついて見ている。


「どんな原理なんだよ! 信じられない!」

「ほら、俺のスマホは普通に検索できます」


 俺は自分のスマホを取り出して画面を見せた。


「俺のスキルです」


 ちょっと軽くどや顔して言ってみた。本当は、全然スキルでもなんでもないけど。


「ちょっと、待て。じゃあ、クモの弱点とか調べられる!?」

「クモですか? まあ、ググってみれば……」

「マジか!?」


 なんか驚いてるけど、意味が分からない。


「いや、生前の日本での知識を元にウエーイしたいんだけどさ、色々な知識って検索して出てくるもんじゃない!? こっちに来たら電波ないし! スマホ充電できないし! ふわーっとした記憶だけでことに臨むし、クモに似た魔物の弱点とか知らないし!」


 どうも今はクモに似た魔物と戦っているらしい。それで勝てないのかも。俺は勝手に人間の背丈ほどあるような大きなクモを想像した。とてもそんなヤツと戦おうとか思わないけど……。


「そう言えば、クモって殺虫剤効かないですもんね」


 俺はじいちゃんに言われて庭のクモを撃退しようと思って、クモの巣に殺虫剤をかけたことがあった。とりあえず、クモは一旦降りてくるけど、しばらくしたらまた元気に動き回っているのだ。


「そうなんだよ! しかもデカいし!」


 カイは俺の同調にめちゃくちゃのっかってきた。


「そう言えば、クモ用の殺虫剤の残りがあったような……」

「はあーーー!? 殺虫剤あるの!?」

「まあ……」


 俺は家の方から昔使ったクモ用殺虫剤の残りを持ってきた。


「これで良ければ……」

「マジか!? 助かる!」


 カイはすごく良いものを受け取るように、両手でそれを受け取った。


「ねえ、カイ。私たちお腹減った。早くご飯食べに行こう」


 テーブルの美少女二人は退屈な様子。カウンターに集まってしまってる男二人とは全然熱量が違う。


「あ、マスター。この店、何か食べ物はあるか?」

「すいません。まだ練習中なので、カレーくらいしか無くて……」

「「カレー!!」」


 また金髪ブルーアイズとカイの声がハモった。


「カレーの再現に成功したのか!?」

「まあ……」


 ホントはレトルトだけど……。前回、金髪ブルーアイズがカレーが食べたいと言っていたので、一応準備していたのだ。


「マスター! カレー3人分!」

「当然、俺にもくれ!」


 カイも金髪ブルーアイズもカレーを注文してくれた。


「当然、カネは払う!」

「俺も!」

「まいどー」


 ご飯はたまたま炊いたやつがある。カレーは温めるだけだから裏で湯煎してこよう。


 俺は、現世界の方の店でご飯をさらによそって、レトルトカレーをかけた。レトルトカレーでも4個作ると割と大変だな。


 そして、出来上がったカレーを各人の前に運んだ。


「お待たせです」

「このにおい! まさしくカレーだ!」

「おいおいおい! マジかよ!?」


 男二人の興奮が止まらない。後ろの美少女二人は初めて見るであろうカレーをまじまじと見ていた。


「いただきます! お前たちも食べてみろよ!」


 カイは興奮気味に食べ始めた。そして、両脇の美少女にも勧めていた。


「うまいーーー! まさしくカレーだ! 米だよ!」

「カレーだよ! これだよ!」


 男たち二人はめちゃくちゃ歓喜している。それほどまでに異世界にはカレーがないのか。


「あ、美味しい。味が濃いけど、美味しい!」

「ホントだ。美味しい! すごくおいしい!」


 カレーはどんな民族でもうまさでねじ伏せる。(……かどうか知らんけど)美少女二人もカイの食べ方を見習って同じように食べていた。


 女の子二人はめちゃくちゃ可愛いんだけど、別のやつのヒロインだと思うと触手が動かないんだから不思議だ。まあ、美味しそうに食べてくれてたらそれでいいか。


「俺は感動している! このカレーに金貨を払ってもいい!」

「俺も!」


 相変わらず、男たちは中身が日本人なので、久しぶり(と思う)のカレーに大騒ぎだ。


「いつでも出せるので、いつでも来てください」

「マジか!? 嘘じゃないだろうな!」

「俺も来る! 毎日でも来る!」


 常連さんゲットー。レトルトカレーとコーヒーで俺は常連さんを二人もゲットしてしまった。

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