第7話:異世界喫茶店(カフェ)のオープン
なんだか、金髪ブルーアイズの勢いに押されて店を始めることにした。
店を始めるにあたり、改めて自分の店について確認してみた。当然、『現世界』の方は、スマホの電波は入るし、各席、各テーブルの壁には充電用のコンセントが設置されていた。どうやらじいちゃんは本気で店を再開するつもりで準備をしていたのかもしれない。
当然、ガス、水道、電気は来ているので料理などをすることは容易い。まあ、俺は料理できないけど。
驚いたのは、『異世界』側の店舗にもコンセントが各席、各テーブル設置されていたのである。当然、スマホは充電できるし、電波が入ってる! しかも、現世界側店舗も、異世界側店舗もバリ3だ。
そして、異世界側の店舗にもガス、水道、電気が来ているのだ!
まあ、扉一つ隔てているだけなので、俺としてはそれほど違和感はないけど、異世界物の通例としては、異世界側にこれらのインフラはなく、魔石とかをなんやかんやして、どうにかこうにか、照明や冷暖房に転用するのがセオリーだと思っていた。
ガス、水道、電気そろってるんだけど!? キャンプに行ったのに、キャンプ場にガス、水道、電気がそろっていて、炊飯器くらいまであったような裏切られた感は否めない。まあ、俺はキャンプ場に行ったことないけど。
(カランコーン)来た! ついに来た! 『また来る』って言う『また』はいつなのか!? それは誰にも分からない。気まぐれなお客さんにも分からない。当然俺にも分からない。下手をしたら作者にだって分からないのだ。
「やってるか? 仲間連れて来たぜ」
この間の金髪ブルーアイズだ!
「いらっしゃいませ」
俺はすまし顔で出迎えた。学校の制服の白い綿のシャツにスラックスにも見えなくない、黒っぽい綿パン。そして、雰囲気を出すためだけに買った長めのエプロン。
俺はマンガとかで見たマスターの姿を再現したのである。
「よ。また来たぜ。コーヒー頼む。こいつらにも」
そう言うと、金髪ブルーアイズの後から三人入ってきた。
一人は明らかな日本人顔。黒髪の男だ。あと二人は女の子。一人は金髪でウェービーなロング。もう一人は、赤っぽい色のショート。
「よ! 日本人が店やってるって聞いたんで来てみたよ」
気さく! めちゃくちゃフレンドリー!
「あ、はい。まだ始めたばっかりなんでコーヒーしかありませんが……」
「全然OKだよ! コーヒーめちゃくちゃ飲みたい!」
三人組は、真ん中の男がめちゃくちゃ乗り気みたいだった。両脇の女の子たちは当た眼の上に「?」が浮かんでいる表情であることから連れてこられた感が否めない。
何も言わなくても、四人は席についた。金髪ブルーアイズはカウンターに一人で座り、両手に花野郎は一人を横に、もう一人を向かいに座らせて4人掛けのテーブル席に座った。
「紹介するよ」
カウンター席の金髪ブルーアイズが話しかけてきた。よく考えたら、こいつの名前ももう忘れた。山田とか、鈴木とか、割とマジョリティな名前だったはず。しかも、異世界側の名前もあったと思うんだけど……。なんとかフォン……いや、完全に覚えてない。
「この三人は、左からリク、カイ、クウ。真ん中の男が転移者だ」
カウンターに座った金髪ブルーアイズが後ろを見て、俺に紹介してくれた。目が合うと、真ん中の男(多分、カイ)だけが会釈した。あの会釈の感じは日本人だろう。この金髪ブルーアイズが言うのはどうやらホントらしい。
「そうなんですか。美少女二人を連れて羨ましいです」
「だな。どうもスキルらしい」
スキル! どんなスキルなのか!? 美少女二人を侍らせる能力なのか!?
神様がいるなら、その能力を今すぐ俺にもくれ!
「コーヒーが飲めるって聞いたんだけど……」
カイが話しかけてきた。
「はい、今準備します。もう少し待ってください」
俺は豆をちゃんと計量して4人分をコーヒーミルに入れた。
「それにしても、どうやってコーヒーを再現したんだ?」
カイは興味津々らしい。そりゃあ、ここが本当に異世界で、コーヒーがないのならば、こんな店で普通に出てくるのは考えにくいだろう。
しかし、俺からしてみたらうちの店と扉一枚しか隔てていない場所だ。豆がなくなったら30秒で取ってこれるのだから、何の不思議もない。
「ふふふ、スキルですよ」
「「おおー!」」
カウンターの金髪ブルーアイズとテーブルの両手に花カイの声がそろった。なんなら、『そっちのスキルが欲しかったぜ』とか言ってる。こっちはスキルとかないし! 普通に高校生だし! 学校行ってないけど! サボりだし!
うーん、それにしても元さんとの特訓でコーヒー豆を挽く練習も相当やったんだけど、電動式ミルは早く簡単に挽ける一方、どうしても熱を持つので豆の味に変化が出てくる。
それに対して、手動のミルはゆっくり回せるので、豆の味が変わりにくい。その代わり、しんどい。
当然、俺は電動ミルを使っているのだけど、出来るだけ回転を遅く設定して豆の味を損なわない様に注意した。これは今後何か対策を考える必要があるな。
お湯を沸かし、コーヒーサーバーにドリッパーをセットし、紙のフィルターを付けた。俺の能力的に1杯ずつしか淹れられないので、サーバーもドリッパーもそれぞれ4個準備して、4個並べている。
コーヒーを淹れるときのお湯の温度は93度が最適だと分かった。カップに注ぐ際に温度が下がり、お客さんの手元に届くときに70度より少し低い温度になっていたらちょうど飲み頃の温度だ。
元さんから聞いた情報を元に、何度も試して割り出した温度だ。豆の焙煎具合によっても温度を変えないといけないみたいだけど、今のところ俺はこの豆しか使ったことがない。
出来上がったコーヒーをそれぞれカップに注ぎ、各人の前に提供した。
さあ、どうだ! 俺の特訓の成果! 渾身の1杯だ!
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