第3話:コーヒーを淹れたら
俺は家に帰ってコーヒーを淹れてみた。 結果、 特別美味しいわけじゃないし、 特別 まずいわけじゃない。
コーヒーって意外と淹れるのは大変だった。インスタントならカップに粉を入れて、お湯を注ぐだけ。簡単なので、豆からいくばあいはその倍くらいの手間って考えてた。
豆は粉にしなければならない。それにはあのレバーをゴリゴリ回して粉にしていくのだ。これは電動と手動がある。当然、手動の方が大変なので、俺は電動を選んだ。
グビビーンと豆をひいていく。ほんの数秒で粉になった。ふたを開けるとふわりとコーヒーのにおいがした。コーヒーいいな。好きな人がいるって分かる。
次は、コーヒーカップの底に穴が開いたみたいな器具を透明の三角のフラスコみたいな入れ物の上に置く。底に穴が開いた器具の名前は、コーヒードリッパー。ここに豆をひいた粉を入れるんだけど、そのままだと穴から粉が流れ出るので、紙のフィルターを入れる。
透明のフラスコみたいな三角形の入れ物は、コーヒーサーバー。さっきのドリッパーを上にのせて、コーヒーの雫を受ける入れ物だ。三角錐形の物もあれば、円柱形のものもある。
店にあったやかんに水を入れてお湯を沸かして、沸いたお湯をドリッパーに注ぎコーヒーを淹れた。
早速、飲んでみたけど普通?
いや、美味しいけどそれほど手間をかける程のものがあるだろうか。これで100g300円って高くないかな?
じいちゃんのコーヒーの道具として、計量スプーンとか、温度計とか、計量計、タイマーなんかがあったけど、俺は使ってない。コーヒーなんて誰が淹れても、ちょっとくらい量や時間が変わってもそれほど味は変わらないはずだ。
店では1杯500円とか600円するみたいだけど、そこまでお金を出す理由が俺には分からなかった。
「まあ、こんなもんか」
俺は誰も聞いていない独り言を言って、残ったコーヒーの器具類をしまおうとした。
「あっ!」
コーヒーサーバーを床に落としてしまった。ガラス製のサーバーは大破し、折角淹れたコーヒーは床に零れてしまった。
下手に落ちたコーヒーサーバーを受け取ろうとして、手を出したのが余計に悪かった。弾いてしまい、壁と床の境目に叩きつけるような形で落としてしまったのだ。
「あちゃー。モップあったかなぁ……」
更に都合が悪いことに、ドリッパーが大破したのはドアの真ん前だ。さっき確かめたらカギがかかっていたドアで、多分ここが掃除道具入れだ。
ドアのノブを回してみたが、やはり開かない。
俺は予感のような、閃きのような物を感じて、ポケットからカギを取り出してそのドアのカギ穴に差し込みまわした。じいちゃんの部屋で見つけたあのカギだ。
「じいちゃんは、なぜ掃除道具入れにカギをかけたのか……」
(ガャチャリ)
抵抗なくカギが開いたのだけど、俺はこれが当然の結果のような気もしていた。
「さて……」
もう何年も使っていない掃除道具入れ、どんな道具が入っているのか。
(ガチャ)「……」
ドアを開けて俺は絶句してしまった。
―――そこには もうひとつ店があった。
明らかにおかしい。掃除道具入れ程度の広さしかないはずなのに、扉の向こうにはうちの店がもう一つあったのだ。そんな広さがあるのは既におかしい。
そもそも 俺のうちの店はそんなに広いわけじゃない。いかにも喫茶店って感じの広さ しかないんだけど、 それにしても 左右対称の 店がもうひとつあるっていうのは 明らかにおかしい。
家の中の広さに反して店の広さがかなり広い。広すぎる。俺は床に零れたコーヒーのことなんて忘れて、扉の向こうの店に立ち入った。
「これってどこに繋がってんだ?」
俺はそう思ってドアの向こうの 店からその店の入り口のドアを開けてみた。 考えてみれば、窓から外を確認すればよかった。入口のドアを開けてみて驚いた。
そこは全く違う景色だったからだ。
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次回更新は本日18時です。
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