第16話 四年の月日
あれから四年が経った。
私は大学三年生になって、芽久とは大学は離れたけど今も仲良くしてる。
それとは反対に冬実ちゃんと同じ大学になったのは驚いたけど知り合いがいたことを心強く思った。
「芽久! おめでとう!」
「ありがとう!」
今日は芽久と松木先輩の結婚式。
21歳で結婚なんて少し早い、なんて思ったのは芽久には内緒だけど純白のウエディングドレスに身を包み、美しい笑顔で笑ってる彼女を見るといいなーなんて思った。
参列者の中には桜木先輩も勿論いて。卒業式の時とは違う清々しい笑顔。横に立つ顔も名前も知らない美しい女性。
先輩のことを気に掛けることはない。もうしないほうが、いいだろう。
「景。結婚式来られなくて残念だったな」
「そうですね。二人の姿、見てほしかったです」
景くんと久々に再会できると思っていたが、彼は来られなかった。
大学の短期留学がすっかり被ってしまい、渡米中のため欠席。手の中にあるネクタイは寂しそうだ。
「それ。大事そうだな」
「……今日、必要だったんですけど本人いないみたいで」
「欠席なこと、知らなかったのか?」
「私も大学忙しくて、芽久とあまり連絡取れなくて」
「そうか」
そのまま黙ってしまう水城先輩。モデル活動が成功して、今は俳優業もしている彼の知名度は高校時代よりも高くて。身内や高校時代の知り合い、大学時代の信頼できる人しか招待していない披露宴は挙式よりは人数は増えたが、それでも二人の交友関係の広さに比べたら質素なものだ。
それでも、水城先輩を招待したい二人の気持ちが伝わってきて。先輩は嬉しいだろうな。
「美琴ちゃん。実は……」
「美琴ー! ブーケトス始まるよ! こっちこっち!」
「あ、はーい! 先輩私行ってきますね」
何か言いたげな先輩を置いて私はブーケトスの場へ行く。
同世代の私達はすごく気合いが入って。みんな我先に、とブーケを取る気満々だ。
「そーれ!」
円を描くように飛ぶブーケは先ほど桜木先輩の隣にいた女性の手に収まる。
そしてタイミングを見計らったように出てくる桜木先輩の手には小さな箱。女なら憧れるその箱の中には銀色に輝く指輪。
「結婚してくれ」
あがる悲鳴。どこか、羨ましさを感じた。
芽久の次に、あの目を向けられるあの女性が。あの女嫌いであった桜木先輩を振り向かせたあの女性が。魅力的すぎて、私には眩しすぎた。
ああ。貴方はやっと幸せになれるんですね。まだどこか進めない私を置いて。
「お幸せに。好きだった人」
目に涙を浮かべる彼女を見て、私は素直にそう言えた。
私の二年を彩ってくれた人は、四年の間で変われたらしい。それがどこか羨ましくて、四年の間でほとんど変われていない自分に、落ち込んだ。
どこか、幸せな雰囲気に似合わない私は披露宴会場を抜け、人気のない中庭へ向かった。
「幸せに、なりたいな」
私もいつか、ああなりたい。ああいう笑顔を浮かべたい。誰かの隣で。
その誰か、なんて私の中ではもう決まってる。だけどこの四年の間、ほとんど連絡もできずにいて水城先輩や松木先輩経由で彼の話を聞くことしかできなかった。
人は四年の間で変わる。それは桜木先輩で立証していて。
彼の気持ちがあの時のままかなんて、私には分からない。また失恋してしまうかも。
それでも、このネクタイは手放すことができなかった。
「だーれだ」
「え」
突然覆われた視界。暖かいその手は、真冬に晒された私の目元を温める。
人よりも低い声。私が聞きたくて、たまらなかった声。
匂いが、体温があの時と変わっていないようで、変わっていて。どこか寂しさを感じる。
「久しぶり。覚え、てる?」
「……うん。全部、覚えてるよ」
四年間煮詰めた私の気持ち、全部聞いてほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます