第12話 救世主

「え。なん、で……」

「自分の行動で友達傷つけた。友達の好きな人だって盗った。なのに私だけ幸せになれない」


 真っ直ぐな目で松木先輩を見る芽久。みんな啞然としてる。私だってそうだ。

 芽久がここまで責任を負うことはない。たしかに芽久に対して嫉妬してたことは少なくない。でもそれ以上に幸せになってほしかった。いつの間にか好きな人を失恋させたい、を超えるほどに。


 二年前からずっと松木先輩を見てた芽久を、二年間傍で見て来た。

 付き合えたって報告を聞いた時、なによりも嬉しかった。だって大好きな友達だから。


 なのにどうして。私のせいだ。私が我慢できなかったから、私が強がれなかったから。


「どういう状況だ⁉」

「景、くん」


 誰もがどうすることができないこの状況に救世主がやってきた。恐らく小田先輩が呼んだ。

 額に汗が滲む景くんは断片的にしか状況を聞いていないのかもしれない。私と桜木先輩が向かい合っているのではなく芽久と松木先輩が話しているのが理解できていない様子だった。


 景くんは私の傍により、涙を流すだけの私の背を摩る。


「美琴、大丈夫?」

「景くんお願い。芽久をとめて」

「え?」

「芽久、全部終わらそうと、してる」


 勘がいい景くんはそれだけで全てを理解してくれて。松木先輩の前に立ち、別れを告げるだけの芽久のもとへ向かう。


「椎名さん落ち着いて。美琴はそこまで望んでないよ」

「私がそうしたいの。これはけじめだから」

「……みんな頭に血が上ってる。今日は解散して、後日また話し合おう。それでいいね」


 頑として一点張りの芽久と眉間に皺を寄せ、聞いているだけの松木先輩に痺れを切らした景くんがそう提案した。

 すると芽久は渋々頷き、私のもとへ駆け戻って来た。景くんは松木先輩と桜木先輩に何か言うとこちらへ戻って来た。


「送っていくよ。帰ろうか」

「ごめん、なさい」

「美琴のせいじゃないよ。私が悪いの。だから何も気にしないで」

「誰のせいでもないよ。みんな、想いが一方通行になっちゃっただけだからね」


 仕方のないことだよ、なんて景くんが宥めてくれるけど私のせいとしか思えなくて。

 止まったはずの涙がまた流れてくる。今日は涙腺が崩壊しているのかちょっとしたことでも涙が溢れて止まらない。


 そんな私に気づいて芽久のほうを先に家へ送り、私の家の近くの公園に入った。


「美琴ちゃん、頑張ったね。偉いよ」


 頭を撫でて、子供のように接してくる景くんに普段なら怒っただろう。でも今日はその手が暖かくて、大きくて。いつか、桜木先輩に撫でられたことを思い出して涙が止まらなかった。


「美琴ちゃんはこれからどうしたい?」

「わたし、芽久と松木先輩が別れてほしくないっ」

「うん、分かった。俺も別れないように頑張るね。あとは?」

「……告白して、全部終わらせたい」

「分かった。奏と小田にも取り合ってみるよ。本当に、いいんだね?」

「……うん」


 これで、私の恋は終わりを迎えられるはずだ。

 先輩にとっては気持ち悪いかもしれないけど、少しだけ我慢してほしいです。

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