第13話 ごめんなさい

 それから一週間が経って。私、芽久、松木先輩、桜木先輩、そして景くんの五人が公園に集まった。


 本当はファミレスとかのほうが良かったけど頭に血が上りやすい話をするので乱闘になって店に迷惑をかけられないので、誰にも迷惑をかけない場所すなわち公園になった。

 真っ昼間なので、太陽が肌を照り付けていてびりびりと痛い。


「それで、昨日の続きをするけど」

「私の意思は変わっていませんから。健二くん……松木さん、別れてください」


 完全に他人行儀を貫く芽久に松木先輩は傷ついた表情をしていて。対称的に横に座っている桜木先輩の表情はよく分からなかった。

 芽久の意思は何も変わっていなくて。私はどう説得すればいいか分からない。

 自分が今から何をすべきかは分かってる。でも……。


「芽久。芽久は、どうしてそこまで春日井ちゃんにこだわるの……俺だけじゃダメ?」

「そうじゃない。美琴は私が辛い時傍にいてくれて、誰よりも大事にしてくれた。美琴がどう思ってるかなんて私には分からないけど、私の気持ちは何一つ変わらない。だからこうするの」

「……椎名さんの意思は固いけど、美琴ちゃんはそれを望んでないよ。大事にしてくれて、恩返ししたいって思ってるのに望んでないことしていいの?」

「それ、は」

「あと、黙ってないでなんとか言ったらどう? 桜木」


 無言を貫く桜木先輩。正直、先輩にとって私はどうでもいい存在で。むしろ都合がいいだろう。

 松木先輩と芽久が別れて。自分の物にできるチャンスがやってきた。都合の悪い私を除いて、ね。


「……俺は、あの時言ったことを変えるつもりはない。芽久が辛い思いをするぐらいなら縁を切ればいいと今でも思ってる」


 ほんと、酷い人。

 素直に自分の感情をはっきり口にできる人。それが桜木雄介先輩って知ってた。知ってたけど、この場でも嘘一つなく、自分の気持ちをよどみなく出せるなんて、誤算だった。

 好きなはずなのに、知っててずっと見てたはずなのに。そうしてほしくないって自分が否定した。

 だから今も、傷ついてる。


「なっなんて酷いの! 本人を目の前に言うことじゃないよ!」

「……雄介言い過ぎ。さすがにブレーキかけて」

「お前だって、そう思うだろ。こいつのせいでお前ら別れそうになってるんだから」

「それは」


 ああ、この場で悪いのは私だ。私だけが悪い。

 私がいなかったら、私が先輩を好きにならなかったらこうならなかった。

 今でも芽久と松木先輩は幸せに笑ってられた。桜木先輩は芽久に構っていられた。


「景くん。昨日言ったこと覚えてる?」

「……どれのこと」

「全部、終わらせたいって言ったこと。これじゃ終わりなんて見えないし、こうするのが一番だよね」

「美琴何の話?」

「……それは小田と奏に話をまとめてからだって連絡したよね。今無理して言うもんじゃない」

「でもね。私ほんとうはこうなるって分かってた。いつか、こうなるって」

「ねえ、美琴っ!」


 話についてこれない芽久が叫ぶ。

 それか、何を言うか分かっているから止めたいのかもしれない。芽久は基本鈍感だけど多分、今頭が回りすぎて分かってる。

 それは、目の前に座ってる二人にも。


「桜木先輩」

「やめて!」


 場をめちゃくちゃにしてごめんなさい。


「わたし」


 友情関係を壊しかけてごめんなさい。


「あなたのこと」


 受験期に迷惑かけてごめんなさい。




「すきです」




 好きになって、ごめんなさい。

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