第1話 可愛らしい友人

「美琴おはよー!」

「芽久おはよう。そんなに走ったら転ぶよ?」

「大丈夫だって……わわ!」

「ほら言わんこっちゃない」


 春日井美琴かすがいみこと。高校二年生。海の見えるこの美しい街で、私は育った。

 彼女は椎名芽久しいなめぐ。少しドジだけど、天然で可愛らしい子。私の一番の友達。


 芽久と出会ったのは中学の時で。彼女から話しかけてくれた時はすごく嬉しかったのを五年経った今でも覚えている。その可愛さと持ち前の明るさで瞬く間に人気者になった彼女を取られたようで、少しの期間拗ねたのは今も一緒で。一人占めしたい、って感情を同性に抱かせるほどの彼女の魅力は異性には私以上に見えただろう。モテモテの彼女を守るのに必死だったのも思い出深い。


「あ! 健二くんだー!」

「芽久! おはよう!」

 抱き合うような勢いで駆け寄る芽久の行き先は先月できたばかりの彼氏のもと。彼氏は隣の男子校に通っていて。共学のうちの隣に男子校があるのはとても珍しかった。

 彼、松木健二まつきけんじ先輩は優しそうな身長の高いのが特徴的。一つ上の先輩だけど、芽久の友達ってだけで私のも良くしてくれた彼に、私はすぐに芽久の恋人だと認めてしまった。


「おい健二早く行くぞ!」

「はいはーい。じゃまたね!」

「うん!」


 松木先輩には四人の友人がいた。類は友を呼ぶとはこういうことか、と納得するほど顔面偏差値が高い集団。うちの高校にも彼らを密かに狙う声は少なくなくて。彼らと仲良くなるために芽久に声をかける人が後を絶たないほどで。


「美琴今日も顔見れてよかったね!」

「……うん」

「話しかけなくていいの? 女嫌いって噂だけど私には気さくに声かけてくれるよ!」


 私には、あの集団の中に好きな人がいた。桜木雄介さくらぎゆうすけくん。くるくるとした天然パーマが特徴的な彼には大きすぎる噂があった。それは〝女嫌い〟であること。芽久は桜木先輩が気さくに声をかけてくれる先輩だと思っているのだろう。だけど私にとっては違う。

 一度だけ、芽久を待っている時に私を見た桜木先輩の目。心底軽蔑しているような目をしていた。何故芽久だけと話せるかなんて私には分からない。芽久が友達の彼女なのか、はたまた……。


「美琴? 大丈夫?」

「ああ、ごめんね。桜木先輩のことは好きだけど付き合いとかそういうのじゃないの。だから気にしないでね」

「……はーい」


 少し納得がいってなさそうな芽久の手を引き、遅刻ギリギリで校門をくぐった。

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