第25話 活動再開
それから金沢達とは無事に合流する事ができた。
ただ、俺はゴエモンを護衛役として金沢に預けると、来た道を引き返して一人で山頂へ向かった。
神々の戦いを配信するためだ。
今のエマは大人の状態を維持出来ないほど弱体化してしまっている。
その理由の一端は、やはり配信の失敗で人々からの信仰を失ったためだろう。
ならば、もう一度配信をすればいいんじゃないか、と俺は思った。
失った信仰をもう一度取り戻すのだ。
それで現状を引っくり返せるかはわからないが、少なくとも今のままよりはマシなはず。
問題は配信を見てくれるリスナーがいるかどうかだったが、それについては心配なさそうだった。
どうやら金沢のようにネットが使えると気付いている人は多いらしい。
というより、この状況で頼れる文明の利器は持ち歩ける携帯電話くらいなので、ネットが使えるか試さなかった人の方がむしろ珍しかったのだろう。
一部繋がらなくなったサイトもあるようだったが、まだ生きているSNSでは普段よりユーザーのやり取りが盛んになっていた。
そして幸いな事に俺達が配信に使ったサイトも健在で、何人かのユーザーが実際に配信を行っていた。
「よし」
俺は配信のタイトルを入力した。
【神降臨】ダンジョン配信【世界救うよ!】
最初のお試し配信の時と同じ名前。
あの配信を見た人ならこれで気付いてくれるはず……。
俺は多少緊張しながら配信を開始した。
すると間もなく視聴者数が数十人になり、いくつかのコメントが並んだ。
“何これ”
“見覚えあるタイトル”
“本物?”
「良かった、リスナーさん達も無事だったか」
“その声はひょっとこさん?”
“生きてたのか”
“そこどこ?岩山?神様は?”
「とりあえず歩きながら説明するよ」
俺は富士山の状況や山頂の邪神などをカメラに映しながら順を追って今の状況を説明した。
そして、世界が崩壊した事や邪神がさらに力を得てしまった事などを伝えるとコメント欄はどよめいた。
“それじゃあ世界がこうなったのは私らのせいだったの”
“ごめん、僕も神様負けたかもって友達に言っちゃった…”
“でもあんなブツ切りで終わったらそう思うじゃん”
「いや、こうなったのは俺が不注意で配信を切ってしまったのが原因でリスナーさん達のせいじゃない。本当にごめん。ただ、今回の配信を始めたのはリスナーさん達に協力して欲しいからなんだ」
“何をするの”
「これから山頂へ行ってエマ達の戦いを配信する。リスナーさん達にはエマ達の応援をして欲しい。俺達で神様に力を与えて世界を救うんだ」
“俺たちが…?”
“でもひょっとこは大丈夫なの”
“そうだぞお面お前死ぬだろそれ”
“誰かちゃんとカズって呼んでやれよ”
「俺なら心配いらないよ。エマから加護を貰ったから自分の身くらいは守れる」
“加護?”
「実際に見た方が早いか。こんなの」
俺は左腕を伸ばして近くの岩を殴った。
脆そうなのを選んだのもあって岩は派手に砕け散る。
“腕伸びた”
“強っ!”
“ちょっとキモい”
“牛乳吹いた”
リスナーたちがわいわい騒ぐ。
どうやら俺に関しては心配ないと判断してくれたようだ。
「そんな訳で俺は大丈夫。……それじゃこの配信は一旦切って山頂に着いたら本番を開始する。だからリスナーさん達はこの配信の事をできるだけ多くの人に伝えて欲しい。あのでかいのを倒すには生半可な応援じゃ足りないだろうから」
“わかった”
“知り合いに宣伝しまくるわ!”
“僕たちが世界を救うのか”
“あなたも気を付けて”
“絶対無事に山頂着いて配信しろよ!途中で死んだらブッ殺すからな!”
“ほい殺人予告で通報”
“草”
配信は終了した。
リスナー達の反応は上々だったし、あとは山頂に辿り着くだけ。
俺は水先から受け取った小袋を取り出すと丸薬を一つ口へ放り込んだ。
「……これでもう現世には帰れない、か」
俺は呟いた。
だが後悔は無かった。
丸薬は見た目の通り飴玉みたいな味だったが、効果は確かだったらしい。
舐めている内にみるみる力が湧いてくるのを感じた。
「それじゃ行くか」
試しに跳ねてみると驚くほど高く跳べた。
俺はエマがやったように岩から岩へ飛び移りながら山頂へ向かった。
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