第21話 再会
「ゴエモン、大丈夫か!?」
俺は急いで船から降りるとゴエモンに駆け寄った。
ゴエモンは俺に気付くと勢いよく飛びついてきて顔をペロペロ舐め回した。
「ワンワンッ!」
「こ、こらゴエモン、くすぐったいって」
俺は舐められながらゴエモンの身体を確認した。
幸い怪我などはしていないらしい。
箱に痛んだ所は無いし、歯が欠けたりもしていない。
ミミックの舌は大きいので身体中ヨダレまみれにされてしまったが、ゴエモンが無事だったのならこの程度安いものだ。
「愛犬は無事だったみたいだな」
振り返ると水先も船から降りて来ていた。
俺はゴエモンを撫でてやりながら言った。
「ありがとうございました、船動かしてくれて」
「構やしないさ。僕としても十分な収穫が得られたからね」
「収穫? 小鬼が落とした石の事ですか?」
周囲には川岸の丸石に混じって沢山の紫の石が散らばっている。
この世界のお金として使われる物だし、全部集めたらそれなりの額になるだろう。
しかし水先は違う違うというように首を横に振った。
「お前さんのその左腕だよ。――神の加護ってやつは授けた神が現存してなきゃ発動しないものなんだ。だからそれを使えたって事はエマ様も今のところ元気でいらっしゃるってことなのさ。それが知れただけでも僕としては一安心だ」
「へえ、そういう物なんですか……」
俺は左腕をまじまじと見た。
この石の腕には助けられたが、まさかエマの無事を示す証にもなろうとは。
「エマは今どこにいるんでしょう」
「さてねえ。お前さんとゴエモン君は近くにいたんだし、あの方もこの辺にいてもよさそうなものなんだが……」
水先は頭を掻きながらどこか不安そうに言った。
俺も水先の心配事は何となくわかった。
エマは配信によって自身の強化と邪神の弱体化を同時に行おうとしていた。
だが配信は失敗し、邪神と同化した黄泉の国が一気に勢力を拡大するという結果になった。
つまり、現状はエマの狙いとは真逆の状況になってしまっている。
配信によって人々の恐怖を集めた邪神がここまでの力を得たのなら、エマは反対に力を削がれてしまった可能性もあるのだ。
多少力を失ったからといってエマが小鬼などにやられてしまうとは思えない。
しかし万全で無い可能性が高いのだから心配にはなるだろう。
俺としてもエマとは合流しておきたかった。
今後について相談をしたいというのもあったし、何より俺自身エマの無事をこの目で確認したかったからだ。
しかし探すにしてもどうすればいいのか。
見つけ出す手段はないし、そもそも近くにいるかもしれないというのだって推測でしかないのだ。
俺と水先は無言で首を捻った。
その時、ポケットに入れていた携帯が不意に音を鳴らした。
聞き慣れた効果音。
メッセージアプリの着信音のようだった。
「!?」
俺は慌てて携帯を取り出した。
画面を確認すると、やはり聞き間違いではなかった。
今の音はメッセージアプリの着信音で、金沢からのメッセージが届いていた。
“白山、無事か? このメッセージ受け取れてるか?”
「金沢……?」
俺は目を見開き、画面に釘付けになった。
安否不明だった金沢から連絡が来たという驚きもあったが、同時にメッセージが届いたこと自体にも驚いてもいた。
どうしてこの状況でネットが生きてるんだ?。
様々な疑問や仮説が頭の中を駆け巡る。
だがすぐに、この際理由なんかどうでも良い、と考え直した。
どうせ現在の世界の正確な状況など誰にも把握できていないのだ。
奇跡的にネットが使える状態になっていて、こうして金沢からメッセージが飛んできた。
今の俺にとってはその事実だけで十分だった。
“メッセージ届いた。金沢も無事だったのか”
“白山!よかった、いきなり配信切れたからお前どうなったかと”
“心配させて悪かった。しかしまさかネットが繋がってたとは”
“ダメ元だったんだ。電話は繋がらなかったけどアプリは操作できるようだったからひょっとしたらって。とにかくお前が生きてくれてて本当に良かったよ”
俺と金沢は互いに無事を喜び合い、それから情報交換をした。
金沢によると、水先が言った通り配信が途切れて間もなく現世でのダンジョン被害が一気に進んだらしい。
金沢の家も周辺地域一帯ごとダンジョンに飲み込まれてしまったが幸い人的な被害は無く、丁度いい広さの洞穴が近くにあったので今は家族や近隣住民とともにそこへ避難しているそうだ。
俺の方からは配信後の出来事や現在わかっている限りの世界の状況を伝えた。
“……とんでもない事が起きたんだろうとは思ったけど、まさか世界崩壊なんて状況になってたのか”
“水先さんによると他の神様達が動いてくれているだろうって話だ。だから助かるって保証もないから気休め程度だけど”
“それだけでも希望が持てるから助かるよ。他の人達にも伝えておく”
“頼んだ。ところでお前らがいる洞穴、外に目印になりそうなものはあるか?”
“目印?それなら洞穴の目の前に富士山があるよ。お前の話を聞くまでまさか本物の富士山とは思ってなかったけど”
「富士山だって?」
俺は顔を上げて富士山を見た。
それから急いでメッセージを送る。
“もっと詳しい場所を教えてくれ。俺もすぐそちらへ向かう”
エマの事も気になるが、金沢達がいるならそちらの安全の確保が優先だろう。
俺とゴエモンが行けば少しは助けになれるはずだ。
だが、俺の申し出に対し金沢は予想外のメッセージを返してきた。
"いやお前はこっちには来ない方がいいと思う。むしろ逆に離れてくれ”
"どうして”
“富士山の山頂から時々恐ろしい声が聞こえるんだ”
“声?”
“ああ。聞き間違いじゃなければ配信で最後に聞いた邪神の唸り声と同じ声だ。似てるだけの別の音かと思ってたんだが、世界が混ざったっていうのなら実際にあそこに邪神がいるんだと思う”
“それは本当なのか?”
“本当だよ。それ以外にも雷みたいな馬鹿でかい音も聞こえてきてる。何が起きてるかは知らないが、もう俺達は下手にここから動かない方がいいし、お前も近付かない方がいい”
「富士山の山頂に邪神が……?」
俺はもう一度富士山を見上げて呟いた。
すると水先が目を見張った。
「何だと、そりゃ確かか?」
「ええ、友達が声を聞いたそうです」
「マジか。だとすると不味いな」
「何がです?」
「神様ってのは離れていても互いの位置を大体察知できるんだよ。だから邪神がいるなら他の神々も集まっているはずだ。……ひょっとするとエマ様も山頂へ向かったのかもしれないな」
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