第15話 ゴブリン退治2
“なんだあの緑色”
“ゴブリン?”
“武器持ってるな”
「あれは小鬼と呼ばれてる存在で、瘴気溜まりから無尽蔵に湧いてくるカビみたいなものさ。邪神が私の動きを察して差し向けたのか、それともただ偶然出くわしたのか。どちらにしろ素直に通してはもらえなそうだね」
“小鬼”
“後ろにでかいのいる”
“数多すぎだし、逃げた方がいいんじゃ…”
小鬼たちはギャギャッと威嚇するように鳴きながら遠巻きにこちらを見ている。
すぐに襲って来ないのはゴエモンが臨戦態勢で唸り声を上げているためだろう。
だが、エマは落ち着かせるようにゴエモンの頭をポンと撫でた。
「大丈夫大丈夫。あれは私がやるから君はご主人様を守ってあげて」
「まさかあの数を一人で相手するつもりなのか?」
「そうだよ。あの程度すら勝負にならないなら神殺しなんて到底無理だからね。私が信用するに足るかどうか、君達の目で実際に確かめてくれ」
言い終えるなりエマの身体が仄かな光に包まれる。
背丈が伸び、胸元が膨らみ――あれよあれよという間に大人の女性に成長した。
“うお、本当に変身した”
“あの切り抜きマジで本物だったのか”
“でかい”
“もどして”
エマの変化にリスナーの一部が盛り上がる。
しかし俺としては気が気ではなかった。
本気であの数の小鬼に一人で立ち向かうつもりなのか?
あんな巨大な個体までいるのに……。
「そんな不安な顔する必要ないよ。まあ見てて」
お面を被っているから表情などわからないはずなのだが、エマは俺を見透かすように笑った。
それからくるりと向き直り、小鬼の群れへ悠然と歩いていく。
いきなり大きくなった女が一人でやって来るのを見て小鬼共は威嚇の声を上げた。
しかし女は見たところ武器を持っておらず、さらに襲って下さいと言わんばかりの露出の高さである。
小鬼共の顔からは間もなく警戒の色が消え、代わりにニタニタ笑いが浮かぶ。
そして手前にいた数匹が女を逃がさないよう素早く四方から取り囲んだかと思うと、奇声を上げて一斉に飛びかかった。
“ちょ”
“やば”
「神様!」
コメント欄に悲鳴が上がる。俺も思わず叫んだ。
だが、次の瞬間悲鳴を和えたのは小鬼の方だった。
エマの足元から複数の岩の柱が勢いよく突き出したのだ。
「ゲガァッ!?」
飛びかかった小鬼共はこの不意打ちに対応できず吹き飛ばされた。
呻きながら地面に倒れ、そのまま黒い煙となって消滅する。
「ふむ、思ったより力が出せそうだ。配信の効果は期待以上だね」
エマは柱を見ながら満足そうに言った。
それから左手を軽く掲げると指をパチンと鳴らす。
するとエマの周囲から突き出していた柱が音もなく引っ込み、元の岩の床に戻った――と思った矢先、轟音とともにエマの前方に巨大な岩の柱が次々出現した。
岩の柱はまるで津波のように小鬼の群れに襲い掛かる。
敵の数とか巨大な個体とか、そんなものは全くの無意味だった。
岩同士がぶつかり合う音や小鬼の悲鳴、周囲に巻き起こる砂煙。
俺は愕然としてその光景をただ眺めていた。
エマは以前、岩を隆起させて椅子を作ってみせた事があった。
出力も規模も段違いだが原理自体はあぶんあれと同じなのだろう。
信仰の力を得た神というのはここまで出来るものなのか。
戦いは数分足らずで終わった。
小鬼の気配は完全に消え失せ、役目を終えた大量の岩の柱はただの床に戻る。
まるで最初から何もなかったかのように辺りは静まり返っていた。
ただし今見た物が幻では無かった証として、辺りには小鬼共が落とした大量の紫色の石が転がっていた。
“すごい…”
“強過ぎでは?”
“マジで神様じゃん”
“俺のことも殴って下さい”
コメント欄はリスナー達の驚きや興奮で溢れていた。
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