第14話 神様一問一答
コメント読み上げ問題は案外簡単に解決した。
読み上げアプリのヘルプを確認したところマニュアル操作モードがあるとわかったのだ。
ざっくり言うと俺が手動で選んだコメントだけを読み上げるモード。
これならコメントがいくら来ようが再生されるのは選んだものだけなので処理がおかしくなることはないし、コメントの内容も吟味できる。
まあ、濁流みたいなコメント欄から最適なものを間違えず選択するのは慣れるまで中々大変だったのだが、とにかくこれで少女は画面を見ずにリスナー達と意思疎通ができるようになった。
探索に集中できるようになった少女は歩きながら色々と説明をした。
今回のダンジョン災害の原因や解決法、そしてこの配信の目的などなど。
これまでに俺に語ったのと大体同じ内容だった。
だがその話を素直に受け入れられたリスナーはごく僅かだったようで、大多数からは懐疑的な反応が返ってきた。
“ダメだ理解が追い付かん”
“黄泉の国なんてそんなの本当にあったの?”
“うさん臭さ増してきたなあ……”
まあこうなるよな、と俺は思った。
何しろ様々な異常現象を実際に目にしていた俺でさえすぐには飲み込めなかったのだ。
画面越しの伝聞だけで信じさせるのは至難の業だろう。
ただ、少女もリスナー達がこういう反応になるのは予想していたらしい。
慌てるでも怒るでもなく、それまでと変わらぬ調子で言った。
「うん、無理に信じろとは言わないよ。私も君らが荒唐無稽だと思うような話をしている自覚はあるからね。だからとりあえずそういう設定でやってるんだなあ、くらいの軽い気持ちで眺めていてくれて構わない。私としては現世を脅かしているダンジョンというものがそこまで怖い存在じゃないって伝えられれば十分だから」
“ほほう”
“それならまあ視聴続けるか”
“ダンジョンの事は知りたいしな”
無理に理解しなくていい、と言われて大半はひとまず納得してくれたようだった。
真偽はともかく受け入れようという感じのコメントが増えていく。
俺がそれを伝えると少女は満足そうにニコリと笑みを作った。
「さて、以上で説明は終わり。あとは何か変化があるまで雑談タイムにでもしようか」
“雑談タイム?”
「そうだよ。問題の神の所まではまだ少しかかるからね。それまでは基本的にずっと洞窟を歩くだけの退屈な映像になっちゃうし、折角だから有効活用しようかなって。私に何か質問はあるかい? 多少過激な内容でも答えてあげちゃうよ?」
神はそう言いながらウィンクしてみせた。
するとコメント欄には一斉に質問が書き込まれていく。
ただ、少女の言い方が不味かったせいかセクハラ紛いの質問が多かった。
最初の配信の時も思ったが、どうもこの少女はリスナーを必要以上に挑発して面白がっている節がある。
単にそういう性分なのか、それとも何か意図があるのか。
とりあえず俺はコメント欄から読み上げても問題なさそうな質問を選ぶと少女に投げた。
“名前と年齢は?”
「そういえばまだ名乗ってなかったね。それじゃそうだな……私の事は『エマ』と呼んで貰えるかな。年は数えてないから分からないけれど、多分君らよりはお姉さんだと思うよ」
そりゃそうだろう、と俺は思った。
見た目は幼いが仮にも神様が俺達より若いはずがない。
しかし……言われてみれば神様の名前聞いてなかったんだな、と俺は今更気付いた。
聞かなかった俺もどうかと思うが、思い返してみると名前に触れないよう会話を誘導されていたような気もする。
言い方から察するにエマというのも本当の名前ではないみたいだが、正体を明かせない理由でもあるんだろうか。
まあ、それはそれとして次の質問である。
“某サイトで見た切り抜きだと成長してたけど変身できるの”
「できるよ。私は物の形を変化させるのが得意な神様だからね。ただ、この子供の姿が一番楽だし気に入ってもいるから基本的にはこれで行動する事が多いかな」
エマはそう言いながら両手を広げ、くるりと回ってみせる。
するとコメント欄では“大きくなった姿が見たい”とか“そのままの君でいて”とか、子供形態とお姉さん形態どちらがいいかの大議論が巻き起こった。
しかしわざわざ読み上げるようなものでもないので取り上げはせずそのまま流す。
次。
“他にも大勢の神がいると言っていたがそいつらは何してるんだ。人類が危機に瀕しているのに助けてくれないのか”
「どうだろうね。私も他の神の動向は把握していないんだ。多分だけど我関せずで寝てる神や自分の信奉者だけを守っている神が多いんじゃないかな。神って基本的に身勝手だから。私みたいにこの異変を解決しようと動いているのも少しはいるとは思うけど」
つまり現状では援軍は期待しないほうがいいって事かな、と俺は思った。
次。
“神様って具体的にどんな連中なんだ?”
「君達が思い描いている通りの神様だよ。私達は人間を地上に生み出したけれど、私達の名前や姿、役割を確定させたのは君達だからね」
何気ない質問だったはずだが妙に哲学的な答えが返って来た。
コメント欄も“お、おう……”と困惑気味の反応が多い。
興味深いと感じなくも無いが、詳しく聞いたら長くなりそうだし難しい内容では視聴者数が減ってしまうかもしれない。
という訳で俺は早々に次の質問を選んだ。
“神様というのが私達の思い描いた通りの存在なら、問題の神というのも私達が知っている神様なんですか?”
「そうだね。名を聞けば八割九割が知ってる程度には有名な神だと思うよ」
“そんなに”
“誰だろ”
“有名な神のくせに下らない動機でこんな災害起こしたのかよ……”
“いや神話読めばわかるがメジャーな神ほど碌でもないぞ”
「あはは、私も碌でもないのは否定しないよ。しかしまあ本人の名誉の為に問題の神の真名は伏せさせてもらおうかな。ただ問題の神ってのもいい加減言い辛いし、あいつの事は『邪神』とでも呼んでやればいいと思うよ」
“いや邪神て”
“本名バラすより酷くない!?”
擁護すると見せかけて邪神呼ばわりを仕向ける畜生ぶりが受けたらしくコメント欄がワッと沸き立つ。
だがそんな中、一つ気になる質問が目に入った。
俺は迷ったがその質問を選ぶことにした。
“そんなに有名な神なら強いんじゃないの? エマ様、勝てるの?”
それを読み上げるとコメント欄の勢いが止まった。
コメントはまばらだが、画面ごしにリスナーたちの不安が伝わってくる。
しまった、と俺は後悔した。
こんな冷や水を浴びせるような質問、やはりスルーするべきだったかもしれない。
しかしエマは臆する様子もなくきっぱりと言った。
「勝てるよ。勝算が無かったら最初からこんな事していないからね。……とはいえ口で言うだけじゃ納得できないだろし実際に証明してみせようか」
「証明?」
思わず俺は声を出した。
エマは頷き、これから向かう予定だった進路へ顔を向ける。
「丁度いいタイミングでお客さんの登場だ」
エマの視線の先には緑色の肌をした生き物の群れが見えた。
前にガイコツ達を襲っていた小鬼と呼ばれる連中だ。
ただし今回は前回とは状況が少々違っていた。
まず第一に、小鬼共は既にこちらの存在に気付いており、明確な敵意を向けていた。
そしてもう一つの違いとして――今回の群れには通常の小鬼だけではなく、数メートルはあろうかという巨大な個体が何体も混じっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます