第5話 ステータスオープン!
“……という事があった”
“腕は大丈夫なのか?”
“今の所は痛みも違和感もないよ”
ガイコツ達が去った後、俺は金沢に今の出来事を伝えた。
といって何かを調べて貰いたかった訳ではない。
自分一人で抱えるにはきついので話し相手が欲しかっただけだ。
“しかしゴブリンにスケルトンに戦利品の宝石か。本当にダンジョンものというかゲームみたいだな”
“そういや今更だけど現代ダンジョンものってどんな内容なんだ?”
“あれ、お前知らんの?”
“名前くらいは聞いた事あるよ。でも俺普段小説とか読まないし”
“そういやそうだったな。じゃあ説明しようか?”
“頼む”
“OK。つっても俺もたまに暇潰しで摘まむ程度だからそこまで詳しくないけどな”
金沢の説明によると、『現代ダンジョンもの』というのは名前の通り現代にダンジョンが出現したという設定で展開される物語全般を指すらしい。
ダンジョン内にはモンスターがいたり、地球上では本来手に入らない鉱石やエネルギーなどが存在していたりする。
そんなダンジョンで物語の主人公は鉱石を持ち帰って一儲けしたり、配信をやって人気者になったり、と様々な冒険をするのだそうだ。
“確かに今の状況に似てるな”
“だろ?”
何の前触れもなく世界各地に現れた謎の洞窟。
なるほど、まだ一日も経っていないのにダンジョンという呼び名が定着する訳だ。
“そういえばさ”
“うん?”
“ひょっとしてお前、それこそダンジョンものみたいにスキルとか使えるようになってたりしないか?”
説明によると、現代ダンジョンものの登場人物はダンジョン内にいる時に限りスキルと呼ばれる特別な力を使える場合が多いらしい。
“いやスキルって。さすがにそれは無理だろ”
“でもまだ試してはいないんだろ? なら一度試してみたらどうだ? もし使えればまたモンスターに出くわした時の対抗手段になるし”
“それはそうかもしれないが……”
これは現実でフィクションではない。
俺は超能力者でも何でもない普通の人間だし、ダンジョンに入ったというだけで特別な力を使えるようになるとはとても思えなかった。
第一、もしそんな力に目覚めたなら自分で何か変化を感じるだろう。
……いや、ちょっと待て。
そういえばさっきあったな、変化。
俺は自分の手をまじまじと見つめた。
あのガイコツに渡され、俺の手の中に消えてしまった謎の紫色の石。
あれによって何か変化が起きたという可能性は無いだろうか。
このダンジョンの中で常識が通用しないのは散々見てきたのだ。
ひょっとしたら……。
俺は少し迷ったが、金沢に聞いた。
“スキルが使えるかどうか、どうやれば確認できると思う?”
“そうだな、試しにステータスオープンとか叫んでみたらどうだ?”
ステータスオープン。
それは俺も聞いたことがあった。
ステータスオープン、と言うとゲームのステータス画面みたいな物が目の前に現れる、というやつである。
ネットで齧った知識だがウェブ小説だとよくあるシーンらしい。
「よし……」
試してみるか。
俺は気持ちを落ち着かせるため一度深呼吸した。
それから片手を前にかざし、大声で叫ぶ。
「ステータスオープン!」
洞窟内に声が響き渡る。
そして、特に何も起きなかった。
ゴエモンが首を傾げ、いきなりどうしたお前、と言いたげに俺を見上げる。
「………」
俺は無言で手を下ろし、メッセージを入力した。
“出なかった”
“そうか。残念だったな”
“とりあえず今まで通り出口を目指すよ”
“了解。こっちも役に立ちそうな情報調べとくから何かあったらまた連絡する”
“頼んだ”
アプリを切ると俺はゴエモンに声をかけた
「さて、そろそろ出発しようか」
「ワンッ」
護身用にゴブリンの棍棒を一本だけ拾い、俺はまたゴエモンに案内されながらダンジョンを進んでいった。
「はぁ……」
歩きながら、無意識に溜め息が漏れた。
スキルなど使える訳がないと最初から思っていたはずなのに、それが確定してみると想像以上に落胆している自分がいる。
何だかんだ言って、やはり特別な力という物に憧れがあったのかもしれない。
※ ※ ※
ダンジョンを進む道すがら、俺はブラウザアプリで行政のサイトを開いた。
一応駄目元で助けを呼べないか確かめようと思ったのだ。
だが、載っていた緊急連絡先に片っ端から電話を掛けても繋がりすらしなかった。
「やっぱり自分で何とかするしかないか……」
俺は肩をすくめて携帯を仕舞った。
その時ゴエモンが突然立ち止まった。
何か気になるのか、今歩いてきたばかりの道をじっと見つめている。
「どうした?」
俺は声を掛けた。
するとゴエモンはワンッと一声鳴き、来た道を引き返し始めた。
とりあえず俺もその後に続く。
そして間もなく、ゴエモンが引き返した理由を理解した。
「え、何これ」
そこには駄菓子屋があった。
さっき通り過ぎた時は何も無かったはずの場所に、何故か駄菓子屋が建っていたのだった。
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