第4話 ゴブリン退治

 ゴブリンの群れはこちらに気付いてはいないようだ。

 一か所に集まり、手にした棍棒を振り回しながら興奮気味にギャアギャアと騒いでいた。

 そして、そんな群れの中央には大きな岩の柱のようなものが立っていた。


「あれは……?」


 一体何をしているのだろう、と俺は目を凝らした。

 そして状況を理解すると思わず寒気を覚えた。


 岩の柱には数体の人骨が縛り付けられていた。

 ゴブリン共はそれを殴って遊んでいたのだ。


 『行方不明者多数』


 先程見たニュースの見出しにそんな物があったのを思い出した。

 まさかあの遺体……俺のようにダンジョンに迷い込んだ人達の成れの果てなのか。


 しかし、よく観察してみるとどうも違うようだ。

 そのガイコツはガイコツではあったが遺体ではなかった。

 というのも、姿はガイコツだが普通に動いているのだ。


 どうやらガイコツもゴブリンと同じくこのダンジョンのモンスターのようだ。

 人骨ではなく最初からああいう姿の生き物(?)なのだろう。


 ただ、ガイコツ達は苦しそうだった。

 自分達を縛っている縄から逃れようと必死にもがき、棍棒で殴られるたびに止めてくれと悲鳴を上げるようにあごの骨をカタカタ鳴らす。


 そんな反応を見てゴブリン共は笑っていた。

 言葉はわからないが明らかに面白がっている。

 そして、もっと泣けと言わんばかりにガイコツ達をさらに殴り続けていた。


 俺にとってはガイコツもゴブリンも異形の怪物だ。

 どちらも今の所どういう存在かは分からないし、どんな経緯でああなったのか知る由もない。


 だが、俺はゴブリン共に対して嫌悪感を覚えた。

 そしてそう感じたのはゴエモンも同様だったらしい。


「ワンワンワンッ!」


 ゴエモンが激しく吠え立てながら飛び出していった。

 箱の姿なのに普通の犬と大差ない俊足で群れの中に突っ込み、何事かと振り返った一匹の頭にそのまま齧りついた。


「ギャッ!?」


 そのゴブリンは一撃で絶命したらしい。

 短い断末魔を上げ、身体全体が黒い煙に変わったかと思うとそのまま霧になって消えてしまった。

 そして――何やら紫色の石のような物が一つ地面に転がったのが見えた。


 突如現れたミミックに群れはパニックになった。

 次の獲物を狙うゴエモンから逃げ惑い、蜘蛛の子を散らすようにあっという間にその場からいなくなった。


 ついさっきまでの喧騒が嘘のように辺りは静まり返る。

 残ったのはまだ少し興奮気味のゴエモンと、ゴブリン共が投げ捨てていった沢山の武器、そして岩の柱に縛り付けられた数体のガイコツ達。


「ワン、ワン!」


 ゴエモンがガイコツに駆け寄り、こちらを向いて鳴く。

 縄を解いて欲しいようだ。


 ガイコツ達からは先程のゴブリンのような凶暴な印象は受けなかった。

 俺はそれでも少し迷ったが、ゴエモンが余りにも期待を込めて見てくるので応える事にした。


 まあさっきの戦闘を考えれば、仮にガイコツ達が暴れ出してもどうにかなるだろう。

 ゴエモンがあんなに強いとは知らなかったが。


 ガイコツ達は植物の蔓のようなもので縛られていた。

 かなり堅かったものの、転がっていた棍棒で何度か叩くと繊維がほぐれ、何とか千切る事ができた。


 拘束されていたガイコツは全部で五体だった。

 どのガイコツもやれやれといった様子で肩を回したり背伸びをしたりしている。

 骨だけの身体でも肩凝ったりするんだろうか、と俺は少しだけ気になった。


 それからガイコツ達はあごを鳴らして何やら話し合っているようだったが、やがてその内の一体が集団から離れて歩き出した。

 どうしたのかと見ていると、地面に落ちていた何かを拾い上げて戻ってきて、それを俺に差し出す。


「これは……」


 それは紫色の石だった。

 手の平に収まるくらいの大きさの、カット前の宝石の原石のような少々いびつな形の石。

 先程ゴエモンがゴブリンを仕留めた時に落ちた石だ。


「これを俺に?」


 俺はガイコツと石を交互に見たあと、ゴエモンに目を向けた。

 この石が何かはわからないが、ゴブリンを仕留めたのはゴエモンだ。

 ただ見ていただけの俺が受け取っていいのだろうか。


 だがゴエモンはヘッヘッヘッと呑気に舌を出しながら俺達を見上げている。

 俺が受け取る事に異論は無いらしい。


 ガイコツ達も俺をじっと見つめ、石を差し出したまま微動だにしない。

 これはきっと俺が受け取らないと場が収まらない奴だ。


「じゃあ、遠慮なく……」


 俺はとりあえず石を受け取った。

 するとその石は俺の手の平に乗った途端に淡い光を放ち始めた。

 光が強くなるにつれて透明になっていき、やがて手の中に溶けるように消えてしまった。


「え、え? 何だ、何が起きた?」


 俺は慌てて自分の手を見つめ、それから説明を求めてガイコツ達に顔を向けた。

 だがガイコツ達は満足げに頷いただけだった。

 そして恭しく俺たちに頭を下げたかと思うと、そのままどこかへ行ってしまった。

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