第2話 思ってたより世界がやばい
俺の名前は白山和希。
R高校の三年生で、現在学生寮暮らし。
いわゆるどこにでもいる普通の高校生という奴で、別に他人と比べて劣っているとも思わないがこれといった取り柄もない。
今まで世間で目立つようなこともなく、平々凡々な人生を送ってきた。
だが今回、どうやら俺はとんでもない大騒動に巻き込まれてしまったらしい。
いや、巻き込まれたのは俺だけじゃなく世界中の全員か。
ニュースサイトをいくつか巡回したが、どこも同じような見出しが躍っていた。
『異空間への入り口? 世界各地でダンジョン発生の報告相次ぐ』
『前代未聞の異常事態』
『行方不明者多数』
『各国の政府、対応に追われる』
『首相と都知事、不要不急の外出を控えるよう呼びかけ』
ざっくりとまとめると経緯や現状は次の通り。
今朝早くに謎の洞窟が世界各地に突然一斉に出現した。
しかも信じられないことに、その洞窟はどうも異世界というか異空間というか、とにかく別の世界に繋がっているらしい。
うちの場合は奥行きなど無いはずの押入れの中に出現したが、他も似たり寄ったりのようだ。
元々そこに何があったかなど関係ない。
物理法則など知ったこっちゃない。
記事に添付された写真を見るとそんな洞窟だらけだった。
発電施設や主要道路のど真ん中などに大穴を開けられて大混乱に陥っている地域もあるようだ。
洞窟の発生理由や詳細は今のところ不明。
マスコミも政府も情報収集に追われているという。
要するに洞窟が出現したという事実以外は何もわかっていない。
何が起きるかわからないからダンジョンを見つけても安易に近づくな、という呼びかけが行われている状況のようだ。
ちなみにこの洞窟は世間ではダンジョンと呼ばれているらしい。
今の状況がネット小説での流行りのジャンルの一つである『現代ダンジョンもの』というのに似ているから誰ともなくそう呼び始め、それが仮の呼称として定着した、ということのようだった。
「なんか、とんでもない事になってるな……」
俺は思わず声を漏らした。
それから金沢にメッセージを送る。
“ニュース見てきた。凄いな”
“だろ?うちの近所はダンジョン無いけどそっちはどうだ?”
俺は少し迷ったがそのまま伝えることにした。
“部屋の押入れにダンジョンできてたよ”
“は?”
“それと昔飼ってた犬がミミックになって戻ってきた”
金沢からはしばらく返信が来なかった。
恐らく驚きで頭がフリーズしたのだろう。
俺自身、意味不明な状況なのだから。
少し待つと返信が来た。
“それ、本当なんだよな?お前こういう時に冗談言う奴じゃないし”
“ああ。それでどうしようか考えてたんだが、まずは通報すりゃいいのかな”
“いや先に避難したほうがいいだろ”
避難か。
言われてみればそうだな、と俺も思った。
普段なら真っ先に思いつきそうなものなのに何故気付かなかったのだろう。
自分では冷静なつもりでも気が動転していたのかもしれない。
しかし、どうやら俺は判断が遅かったらしい。
「ワンワンッ! ワンワンワンッ!」
それまで大人しくしていたゴエモンが突然激しく吠え立てた。
何事かと俺は振り返り、思わず目を疑った。
押入れの戸の奥にあったはずのダンジョンの入り口が目の前にあった。
戸を開けたわけではない。
ダンジョン自体がまるで巨大なミミズか何かのようにうごめき、俺に迫って来ていたのだ。
逃げなければ。
そう思った時は既に遅かった。
ダンジョンはその入り口を大きく開き、部屋ごと俺達を飲み込んだ。
視界が真っ暗になり、俺は奈落の底へと落ちていった。
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