うちの押し入れに出現したダンジョンにいたミミックがどうも昔飼っていた犬の転生体っぽいんだがそれはそれとして世界がヤバい
鈴木空論
第1話 押し入れとミミック
「ヘッヘッヘッ……」
朝起きて押し入れを開けたら、何故か洞窟ができていた。
そしてその入り口、俺のすぐ目の前にはミミックがいた。
開口部にギザギザの牙を生やした宝箱型の化け物。
ダラリと長い舌を垂らし、まるで犬みたいに息を荒げている。
布団を仕舞おうとしていた俺は無言で押し入れの戸を閉めた。
それから布団を脇に置き、押し入れに背を向けて軽くストレッチをする。
「んー……まだ寝ぼけてんのかな俺」
ゲームや漫画じゃあるまいし、ミミックなど現実には存在しない。
それにここは二階の角部屋。押入れの向こうは外なので、物理的に考えて洞窟だってあるはずがない。
やっぱり寝不足が原因かな、と俺は思った。
先日買ったゲームにハマってここ最近ずっと夜更かしをしていたのだ。
あのゲームの事をずっと考えてしまっているし、あれには洞窟もミミックも出てくる。
だから妙な幻覚を見てしまったのだろう。
目のくまや指のささくれも目立つようになってきたし、そろそろ本気で不味い気がする。
一度ちゃんと睡眠取るべきか?
「さて、それじゃ改めて……」
体操をした事で頭も随分すっきりした。
もう大丈夫だろう。
俺は軽く息を吐くと再び押し入れの戸を開けた。
「ヘッヘッヘッ……」
「………」
押し入れの中には相変わらず荒い息のミミックがいた。
そしてその背景はやはり洞窟。
どうやら寝ぼけていた訳ではなく現実だったらしい。
何これ、どういう状況?
俺は絶句し、その場で固まった。
するといきなりミミックは俺に飛びかかってきた。
「―――!?」
俺は避ける暇もなくそのまま押し倒された。
慌てて逃げようとしたが胴体にのしかかられて身動きが取れず、目の前にはヨダレを垂らした無数の鋭い牙。
喰われる。
死ぬ。
俺は顔を引きつらせた。
だが、そうはならなかった。
ミミックは何故か俺の顔をペロペロ舐め回した。
そして目を点にした俺にまるで犬のように吠える。
「ワンッ、ワンワンッ!」
その鳴き声に俺は聞き覚えがあった。
昔実家で飼っていた犬の鳴き声と瓜二つだったのだ。
柴の雑種で、名前はゴエモン。
残念なことに五年前、俺が中学校に上がって間もなく寿命で死んでしまったのだが……。
「……ゴエモン?」
俺は無意識に呟いた。
するとミミックは興奮した様子で一層吠え始めた。
それからその場で跳ねながら器用にぐるぐる回る。
生前のゴエモンが嬉しい時にやっていたのと同じ仕草だった。
「お前、本当にゴエモンなのか……?」
俺は戸惑いながら尋ねた。
本当にゴエモンだとしたら嬉しい。
だが、死んだはずのゴエモンがどうしてここにいるのか。
というか、どうしてこんな姿をしているのか。
押し入れの洞窟といい、一体何が起きている?
その時、机の上の携帯電話が音を鳴らした。
メッセージアプリの着信音だ。
画面を確認すると送り主は金沢裕也だった。
高校の同じクラスの友人だ。
“おい起きてるか?ニュース見たか?”
金沢がこんな時間にメッセージを送ってくるのは珍しい。
文面からすると慌てているようだ。
ただ、これだけでは何かがあったらしい事しかわからない。
こっちも立て込んでるんだが……。
俺はゴエモン(仮)の様子を気にしながら返信した。
“今起きたとこだ。どうした?”
“じゃあニュース見ろ。やべえぞ”
「ニュースってどれだよ」
金沢に聞き返そうかとも思ったが、とりあえずアプリを起動してニュースサイトを適当に開く。
すると俺の目に次のような見出しが飛び込んできた。
『フィクションが現実に? 世界各地にダンジョンが出現』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます