無常なる魔人様

空本 青大

がんばる魔人様

人間と魔物たちがが争う世界【アーズ】――

人は剣と魔法、魔物たちは屈強な肉体と暗黒魔術を駆使し、お互い日夜しのぎを削っていた。


人間サイドの最強戦力【勇者パーティー】

魔物の中でも屈指の猛者集団【魔王軍】


これは、これから勇者との激突に備え、部下たちと作戦会議に臨む、とある魔王軍中間管理職のお話である――


* * *

魔王軍第四支部―

不毛の大地【ケェイナシ】の地下深くに存在する魔王軍支部の基地にて、ひりつく様な空気の中、会議が始まろうとしていた。


「……それでは始めよう」


会議室に重々しい声が響く。

部屋にいる複数人の魔物たちは、自然と背筋が整う。


「あれが第四支部長のノォマル様……」

「冷徹かつ冷静な指揮で軍を率いる猛将……」

「人間のみならず同胞にも恐れられる魔人……」

「見ろよあの目。憎き人間たちへの怨嗟の炎が見えるほどの鋭どい目つき……」

「骸で山ができるほど人間どもを殺し、今の地位に就いたらしい……」

「汗が止まらねえ……」


魔物たちの、通常であれば聞こえるか聞こえないかぐらいの小声を、わたしの常人の数倍の性能を持つ魔人イヤーがすべてを聞いていた。


(…………)

(わたしってそういう風に思われてたのか?……)


声のする方へ一瞥いちべつすると、魔物たちはビクッと体を震わせ、額から大量の汗が垂れていた。


(別に怒ってないんだけど……なんかごめん……)

(目つきが悪いのは生まれつきだし、人間が憎いってわけでもなく、ただ仕事だからやってるだけなんだけどなぁ……)

(あと今の地位に就いたのは、魔王軍幹部一級試験で合格したからだし……)


「軍に入る前から暴虐非道の限りを尽くし、その功績を魔王様に認められ、我が軍に入ったらしい」


(普通に就活で入りました……ペーパーテストと集団討論、面接をクリアしただけなのよ……)


「戦場でノォマル様が戦った姿は誰も見たことが無いらしい。その場にいるすべてを破壊し尽くすだからだとか……」


(いやただ単にデスクワーク中心の仕事してるからだよ!情報収集したり、作戦立てたり、人材の確保とかさ!)

(噂が一人歩きして、なんかとんでもないモンスターになってない⁉部下との距離遠くなってやりづらいし、もっとアットホームな職場にしたいのだが……)


考え事をしながら下に向けていた視線を、ふと目の前の魔物たちへと向けた。

すると、一斉に全員があらぬ方向へと目を背ける。


(……まあ口下手な私にも責任はあるが、とりあえず今は仕事をしよう)


「これより、対勇者撃滅作戦の概要を話す」


私が口を開くと、先ほどまで怯えていた魔物たちの目が、クワッと見開きこちらを見据えた。


(お?やっとこっち見てくれた♪仕事になると基本みんな真面目だなぁ)


やっとこっちを見てくれた喜びに、無意識に口角が上がる。


「うっ!なんだあの笑みは⁉これからの勇者との戦いに、心を躍らしていらっしゃるのか!恐ろしいが頼もしい……」


「三日後にこのケェイナシを勇者パーティーが通る。なので、事前に巨岩エリアにて各部隊を配置し……」


私は作戦の内容を淡々と説明し続けた。

話している間、部下たちは鬼気迫る勢いで聞き入ってくれた。


一時間後―

「……という感じだ。以上となるが質問はあるか?」

「ないです!!完璧です!!!」


問いかけに秒で返す部下たち。

なにも質問がないのは寂しいが、みんなが納得してくれたのなら御の字だ。


「よし、勇者を倒したのならば我ら魔王軍の勝利も同然!人間どもにずっと迫害された恨み晴らしてくれる!!」

「先祖代々暮らしていた土地から我が一族を追いやった遺恨……わからせてやる……」


来たるべき戦いに向け昂った部下たちは、各々が人間たちへの憎しみを口にしていた。


(人間たちが憎くて、戦いに参加してる魔物って結構多いんだよなぁ)

(自分は人間たちが住むところから離れた土地で育ったから、彼らの恨みがよくわからん……)

(モチベーションが給料だしなぁ……私にみんなと同じでつらい過去があったなら、距離も縮まってより一体感がでるかも?)

(私のつらい過去……勉強しか取り柄が無かった青春時代。一度も彼女がいたことなくて、それどころか女子に話しかけられたことすらないなかったな……あ、思い出して来たらしんどくなってきた……)


「うお⁉ノォマル様から突如黒い波動が!くくく、早く戦いたくて疼いておられるようだ……」

「お、恐れ入りますノォマル様!お時間よろしいでしょうか?」


部下の一人に話しかけられ、思い出し凹みから覚めた私は、平静を装い応答した。


「どうかしたか?」

「ノォマル様のご命令で集めた勇者と仲間達の情報をお持ちしました!思いのほか時間がかかってしまい申し訳ございません……この命で償います!」

「いや、そこまでしなくていい……むしろ大変な仕事をよくやってくれた、感謝する。戦いに備え休め」

「⁉もったいないお言葉痛み入ります!失礼します!!」


私に資料を渡し、即座にその場を後にした部下を見送ったあと、早速資料に目を通す。

そこには、対象の育った環境、性格、趣味嗜好、人間関係など一見すると作戦には関係ないと思われる情報だ。

だが、こういうところから相手の行動や思考のが読み取れたりするので、案外大事な要素だったりする。


(どれどれ……勇者【カコイ】十八歳、名家≪パフェクト家≫の長男。何不自由のない環境で育ち、容姿端麗、文武両道。伝説の聖剣に選ばれ、剣技、魔法力、フィジカルのステータスがSクラス。穏やかな性格で誰にも分け隔てなく接する。幼少のころから、男女年齢問わず誰にでも好かれる。異性に告白された数は百を超えるが、勇者の使命を全うするためすべて断っている。)


(魔法使い【ナジミ】十八歳、魔法協会会長≪マジル≫の一人娘。幼少から攻撃魔法の天才と呼ばれ、魔法力はSSクラス。カコイの幼馴染で、昔から今に至るまでカコイを想っている。裏表のない性格と可憐な容姿で、スタイルも良く、告白する男子が後を絶たないが、すべて断りカコイを支えるためパーティーに参加。いずれ勇者カコイと結婚したいと考えている)


(聖職者【ホーリ】十七歳、アーズ大教会の一級聖女。回復とバフ魔法においてSクラスの名手であり、献身的な性格と、常に微笑みを絶やさないことから≪癒しの女神≫の二つ名を持つ。眉目秀麗びもくしゅうれいな顔立ちと豊満な肉体を持ち、異性から注目を浴びることが多い。そのため少々男に苦手意識あり。だが、人のために体を張って戦い、己のことを下卑た目で見ないカコイのことを密かに想っている。いずれ勇者カコイと添い遂げられたらと考えている)


(武道家【コブシィ】十六歳、拳聖≪バラバ≫の孫娘。通常三十年以上かかるバラバ流の数ある奥義を、わずか十五年で修めた武術界の鬼才。体術Sクラスの豪傑だが、小柄で幼さが残る評判の美少女である。好戦的な性格で、強さに心酔する傾向にあったが、カコイと出会い、その強さのみならず、優しさに惹かれパーティーに参加した。拳聖≪バラバ≫の〈強き者と交われ〉という教えを守るため、いずれ勇者カコイを夫にしたいと考えている)


(他にも勇者は各国の姫に求婚されており、さらに世界中でファンクラブが存在する。その会員数は億を超える)


(………………)


ズドォォォォォン!


私の体の中に渦巻くどす黒い怒りと憎しみが、暗黒魔力と結びつき、体外へ放出される。


「ノ、ノォマル様いかがなされたのですかぁ!?」

「ゆ、ゆるさん……絶対にぶっっっつぶすぅぅぅぅぅ!!!!!」


拳を握った私は壁を殴りつけ、一撃で瓦解させた。


「おまえらぁ!絶対にこの作戦成功させるぞぉ!ウォォォォォォォォ!!」

「う、うぉぉぉぉぉ!なんとすさまじい怒気!まるで我々の怒りを代弁しているようだぁ!」

「この方とならやれる!必ずや勇者及び人間どもをやるぞぉぉぉぉぉ!」


部屋中の部下たちと熱量が一体化した私はまさに無敵。


絶対にやれる!


見ていろぉ!勇者ぁ!!


――—――――――

――—――――

――—――


(以下、魔王軍第四支部長【ノォマル】の手記より抜粋)


今後に生かすために、今回の作戦のあらましを記録しておくことにする。


最初に結末を言うと、作戦は失敗したのである。


もうこれ以上ないくらいボロクソに。


もう強すぎです……引くほどに。


魔物サイドが言うのもなんだけど化け物だよ。


まずバフが効きすぎて、物理も魔法も効かない。


出だしで詰みである。


あとは消化試合みたいなもんで、剣や拳でコテンパンにされ、


バカみたいにデカい火球魔法ぶつけられて終了。


時間にして、五分はかからなかった。


……最後に学んだことを語ろうと思う。


世界には戦ってはいけない相手がいる。


どれだけ知恵を絞ろうと、数を揃えようと勝てない強者が存在することを覚えておきたい。


あと憎しみや怒りに支配された、ささくれた心は目を鈍らせるということ。


嫉妬に狂った私は、事前に作戦を変更し、勇者一人に我が支部全戦力をぶつけた。


他のパーティーメンバーをほったらかして、バカの極みである。


上記の教訓を心に深く刻みこみ、改めて人間どもを駆逐していこうと思う。


…………


モテたいな……







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無常なる魔人様 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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