第5話 あたしのおばあちゃん

 ――プルルルッ、プルルルッ……


「もしもし」

「あっ! おばあちゃん! あたし! 蒼! あのね、おばあちゃんに聞きたいことがあって……」

「うん? どうした? なんかあったんか? あっ、おばあちゃんが送った芋とか野菜とかもう届いたか?」

「え、う、うん、届いた、でも芋も野菜も入ってなかったよ。入ってたのは手紙と新聞紙にくるまれた眼鏡だけだったよ」

「は!? め、眼鏡? な、なんでそんなもんが!?」


 おばあちゃんに電話した。この現状をどうしていいのか皆目見当もつかなかったから。この眼鏡を送ってくれたおばあちゃんならなにか知ってるかもって思って。


「わしゃそんなもん蒼ちゃんに送っとらせんよ! う~ん、どういうことやろ? 蒼ちゃん! 今からおばあちゃんそっちに行くからな! おうちで待っとるんじゃよ!」

「え、う、うん、待ってる」


 何故だかおばあちゃんは物凄く慌てた口調で電話を切った。

 おばあちゃんがうちに来てくれる。こいつは有難い。でもおばあちゃん眼鏡なんて送ってないって言ってた。どういうこと? 確かにあて先はおばあちゃん家の住所からだった。それは確実に確認した。間違いない。

一体どういうことなの?


 ――プルルルッ、プルルルッ


「もしもし?」

「あ、蒼ちゃん、おばあちゃん飛行機のチケットの取り方がわからんのよ。蒼ちゃんインターネットとかいうやつでチケット取ってくれるかい?」

「あ、うん、だよね、おばあちゃん機械とかに疎いもんね。すぐに手配するよ」


 おばあちゃんがいる県からあたしの住んでるとこまでは飛行機で約1時間半。ネットで飛行機を手配してあげて、おばあちゃんの到着を待つことにした。



    ◇



「ちょっと! お嬢さん、こんなところでひとりでいたら危ないでしょ!? お父さんかお母さんはどこ?」

「わしに父も母もおらんわ! わしゃ孫に会いに来たんじゃ! もういいからわしに構うな!」

「い、いや、そんなこと言って本当は迷子なんでしょ! 恥ずかしがらなくていいからお姉さんと一緒に詰め所まで行こ? 迷子になっちゃったのはしょうがないんだから!」

「だ~か~ら~! 違うって! わしゃ孫に会いに来ただけだっつーの! なんでわからんのじゃ! お前日本語が通じんのか!」

「んも~、そんなお年寄りみたいな話し方して~。大丈夫。お姉さんがお父さんかお母さん探してあげるから!」

「だ~か~ら~!」


 ――おばあちゃん? なにやってんの?


 空港までおばあちゃんを迎えに行くとロビーでおばあちゃんと空港の警備の女性が言い合いをしていた。


「おぉ! 蒼ちゃん! この小娘に言ってやっておくれ! おばあちゃんは可愛い孫に会いに来たんじゃと!」

「あ、はい、この女性はあたしの祖母です」

「え、え、え、本当なんですか!? え、嘘でしょ、だってこの子……」


 ――幼女じゃないですか……


「おばあちゃん! こういうふうになるから顔は隠してって言ったじゃん!」

「えぇ、だって暑いんじゃもん。ていうかなんで顔を隠さなならんのじゃ! わしは自分の顔に誇りを持っとる! 父と母にいただいた大事な顔じゃ!」


 おばあちゃんは見た目が幼女だ。傍から見ればどう見ても小学生だ。

 おばあちゃんはとある病気で見た目が変わらない。だから一人でいるといつも迷子と間違えられる。今回もちゃんと顔を隠してきてねと念を押しておいたのだが……


「まぁいいわい。んじゃ蒼ちゃん家に行くとするか。あ、その前にハラが減ったな。なんか食べていくか。おばあちゃん『はんばあがあ』とかいうの食べてみたい」

「ハンバーガーね。うん、分かった。ドライブスルーで買っていこっか」


 空港から出て車に乗り込む。おばあちゃんを助手席に乗せ、車は出発する。

 家に帰る道すがらにあったハンバーガー屋さんのドライブスルーに寄り、あたしはドリンクとポテト、おばあちゃんにはライスバーガーを買ってあげた。


「こ、これも『はんばあがあ』なんか? パンが米なんじゃけど? あ、間に挟まっとるのはつくねか? あ、うまいのう、これ。田舎に住んどる近所の連中にも買ってってやろうかのう」

「あ、うん、じゃあ帰りにまた寄るね。てかおばあちゃんが住んでるとこにも、ちょっと車で走ればあると思うんだけどな」

「だってわし車運転できんもん。周りの年寄共もみ~んな免許証返納しとるしなぁ」

「あ、そなんだ。じゃあしょうがないね。多分おばあちゃん家のへんまでは配達もしてくれないだろうしね」

「でもこのばあがあなら自分で作れそうじゃな。今度家で作ってみるわ!」

「うん、そうしなよ。おばあちゃん料理上手だからね」


 そんな他愛もない話をしながら家路へと着く。

 家へ着きおばあちゃんにくだんの眼鏡を見せる……


 眼鏡を見た瞬間おばあちゃんの表情が変わった。さっきまでのおちゃらけた、優しい表情から一変、感情の読めない、いや、感情の一切ないかのような表情になってしまった。


「蒼ちゃん、こいつと一緒に入っとった手紙、まだとってあるか?」

「え、うん、あるよ。これ今朝開けたばっかだから」


 おばあちゃんに手紙を渡す。

 その手紙をまじまじと見るおばあちゃん。しばらくなにか考え込んだあと……


「蒼ちゃん、おばあちゃんちょっと出かけてくるから。少しここで待っちょれ。いいね?」

「え、おばあちゃん出掛けるってどこに!? この辺の地理全然分かんないでしょ!?」

「あぁん? あぁ、大丈夫大丈夫、この辺りに知り合いがいるんじゃよ。そいつに会いに行ってくるだけだから」


 えっ!? おばあちゃんにこの辺に知り合いがいるなんて初耳なんですが?


「で、でもあたし心配だからおばあちゃんについてくよ。迷子になっちゃったら嫌だもん」

「かぁ~! お前もわしのこと子ども扱いするんかい! わしゃお前のおばあちゃんじゃぞ! それにこのすまーとほんも持っとる! 大丈夫じゃ! 蒼ちゃんはここでまっちょれ! いいね!」

「え、う、うん、おばあちゃんがそんなに言うならあたしここで待ってるよ。でも本当に気を付けてね。ここそんなに都会じゃないって言っても、車とかいっぱい走ってるからね。お願いだから事故とかに遭わないでよね!」

「分かった分かった。本当に蒼ちゃんは優しい子だねぇ。おばあちゃんはそんな蒼ちゃんが大好きだよ。すぐに帰ってくるからねぇ」


 おばあちゃんはそう言って、あたしの部屋から出て行った。

 ひとり残されたあたしは冷めたポテトを口に運ぶのだった。


 ――はぁ、冷めたポテト、まっず……


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