第2話

 めっちゃビビらせちゃってる。ホント申し訳ない。

 俺は目の前で肩をすくめる女性に内心で頭を下げた。


 どうしてこうなったんだろう。俺は遠い目をしながらこれまでのことを思い返す。


 横断歩道を渡ってたら突如衝撃が走って、気がついたら知らない街並みですよ。どこだろうと見渡すと、行き交う人はカラフルな髪色をしてらっしゃる。少なくとも日本じゃありえなかった。


 道行く人に、ここがどこか聞いてみようと声をかけたら。


「やれやれ」

「は?」

 

 胡散臭い目で俺を見て、足早に立ち去られる。死んだ目で眺める俺。


 なんで俺やれやれって言ったの?

 ……ま、まぁ慣れない土地で緊張してたのかな。

 ワンモアトライ、ワンモアトライ。


「やれやれ?」

「何? 怖……」


 早歩きで逃げられた。

 不審者RTAかな?


「やれやれ(絶望)」


 言葉は分かるのに、話ができない。

 何で俺は妖怪やれやれ男になっちゃったの?

 ほんともう何が起きてんのか分からなかった。


 そんな詰んだ状況の俺を、助けてくれた人がいて。

 どうにかこうにか生活しているわけだけど。

 我武者羅に仕事をこなしていくうちに、「くたびれた男」なんて変な名前がつけられた。


 確かにやれやれとしか言えないけど、普通に悪口だから止めてほしい。

 しかも街の皆には避けられてるっぽいし。というか現在進行形で怖がられてるし。最初に声をかけた時から評価が何も変わってない。


 諦めたほうが気が楽かもしれない。

 乾いた笑いを浮かべて、思考を切り替える。


「やれやれ」


 それにしてもミンガラムの森に龍か。最近はあの森も物騒なもんだ。少し前に巨大な蜂が大量発生したばっかりだってのに、今度は龍ときた。これはしばらく森に近づかないほうが良いかなと、龍の注意喚起の紙を見ながら考える。


 そんな俺を見て、怯えていた女性は何かに気づいたようにはっと息を呑んだ。


「まさか龍を退治してくれるの!?」


 ……?

 気をつけようと思っただけだが?


 首を横に振って答える。


「やれやれ(否定)」

「その言葉と仕草……朝飯前だってところかしら?」


 ?????

 違うよ???

 そんなことしたら俺が朝飯になるよ???


 手を横に振ってしっかりと伝えよう。


「やれやれ(拒否)」

「ふふ、謙虚ね。あなたがよく龍を退治していることは知っているわ。それとも報酬を求めているのかしら。強かな男ね」


 龍を退治せざるを得なくなる原因は、こういう状況に良くなるからだよ!

 やれやれって言葉をプラスに捉えすぎなんだよこの街の住民は!!


「やれやれ(諦観)」


 俺知ってる、断れなくなるパターンだこれ。

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チートの代償に「やれやれ」としか言えなくなった男 @pokepokke

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