色を好む男 KAC20247

愛田 猛

色を好む男 KAC20247




「今日は白か。」俺は赤井リツ子に向かって声をかける。ベッドの中で彼女は、全裸ではなく、白い下着を一枚身につけている。


「そうね。オーソドックスでしょ。」リツ子がいう。

「まあ、面白みはないがな。」俺は返す。


色素の沈着などない、美しい肌の秘訣は、たぶん独自製法のスキンケア製品のおかげだろう。


「お小遣い、赤い銀行に、今月は色をつけて1100送っておいたわよ。」俺は

当然、万円単位だ。


「ありがとよ。」俺はいう。

「プラチナカードの限度額も5000万円に上げといたからね。足らなかったら言ってちょうだい。」


気が利く女だ。

彼女は化粧品会社を一代で築いたやり手の女社長だ。金には困ってない。


俺は彼女から金と赤坂のタワマンのペントハウスと赤いポルシェをもらい、対価として週一回会うことにしている。


会うときはマンションではなく、高級ホテルのスイートと決めている。


こんな女が俺には六人もいる。まあ、羨ましがられることもあるな。


人によっては、俺のことを好色一代男と呼んだり、ヤリチンとかヒモ大王などと呼ぶ。まあ、俺は相手が望むものを提供しているだけだ。


だが俺は縛られることはない。あくまでギブ・アンド・テイクでサービスを提供しているだけだ。

変なそぶりを見せたら容赦なく切る。

まあ、次の相手にも困ることはないしな。



翌朝、ホテルのベッドで起きたら、リツ子はもう居なかった。経営者たるもの、朝からジムに行った上で早朝会議だろう。ご苦労様だ。


俺はルームサービスで白粥と青菜に紅鮭と赤だしの朝食を済ませると、迎えにきていたマイバッハで出かける。

行先は競艇場だ。

俺はVIPなので、車寄せにつくと現場のヘッドである支配人が出迎え、そのままVIPルームへ通される。


VIPルームは静かで、競艇場の青色の水面が一望でき、しかも大きなスクリーンがたくさんある。

また手元のiPadで選手のデータやオッズを見ることもできる。


だが俺はデータなど気にしない。


支配人が、帯封のついた札束を持ってくる。

「理事からです。ご自由にお使いください。」


「ああ、ありがとう。」俺は答える。今日は3レースから12レースまで、10回賭けることになる。

理事というのは、競艇を束ねる財団の理事だ。競艇の上前をハネて甘い汁をすする連中の天下り先だ。そしてそこの理事、緑山蘭子は俺の女だ。


俺は帯封を開け、そこでサービスするミニスカートの女にいう。

「3レース、赤の単勝、白の単勝、赤白の二連単にそれぞれ33万円ずつ。一万は手間賃だ。」


女は、「はい、わかりました」とアルカイック。スマイルで去っていく。


競艇は6人で争われ、わかりやすいように艇番によって色が決められている。 1号艇=白、2号艇=黒、3号艇=赤、4号艇=青、5号艇=黄、6号艇=緑。

つまり俺は、今日の3レース、3番、1番の単勝と3-1の二連単を買ったことになる。


二連単とは、一位と二位を同時に当てることであり、単勝というのは一位を当てることだ。

だから、白と赤の単勝は、どちらかが必ず外れる、あるいは両方外れることになる。


女が舟券をもって戻ってきた。思ったより若い。


何やら、胸元を開けて、ちょっとしなを作って俺の景色を伺ってきた。


俺は顔色を変えずに告げる。

「君はまだ何者でもない。僕にその帯封のついたものを自力で差し出せるようになってから来なさい。」



女は押し黙った。

レースが終わると、舟券は200万ほどに化けた。


食事をして、軽くワインを飲んだりしながら12レースまで終わった。

最終的に、金は2100万円になっていた。


そろそろ行くか…と思ったとき、女が真剣な顔をして聞いてきた。


「あなたに1000万円渡せる、ということは1億円くらいは稼ぐということでしょう。そのためにはどうしたらいいですか。今は何者でもない私に教えてください。」


意外に真剣な目をしている。

リツ子の若いころに似ているかもしれない。


俺は彼女に聞いた。

「君の名前は?」


彼女は答える。

「山崎橙子(とうこ)です。」


ほう。面白いかもしれない。


俺は、帯封のついた札束を一つ彼女に渡して言った。

「これで、信用取引で赤井化粧品の株を買いなさい。

そこから先は君の才覚次第だよ。頑張れば、きっと違う景色が見える。」


彼女は驚いた顔をしていたが、その目が引き締まった。

「やります。」


もしかしら化けるかもな。化けなくても別にいいのだが。


俺は席に戻り、その場で彼女とともに軽く食事をした。


そして橙子に「また明日な。」と言ってその場を去る。

マイバッハすでに返している。代わりに銀色のBMWが来ている。


そのまま、あるライブ会場に行った。

横の関係者入り口から入り、関係者席でライブを見る。


七色のスポットライトが当たり、会場の色とりどりのサイリウムが揺れる。

熱狂の中でアイドルグループが色々な曲を歌い踊った。



アンコールが終わった後、指定された控室で待っていると、まだ衣装も着替えていない、アイドルユニットのひとり、 はーりんこと桃井遥がやってきた。トレードマークの桃色のミニスカートだ。


「来てくれえたんですね!あ、お花ありがとうございました。」

俺はグループではなく、彼女あてにピンクの薔薇を目いっぱいあしらった花の台を贈り、ライブ会場前に並べてもらったのだ。

彼女の名前は、並ぶ花の中でひときわ目立っていた。


「ああ、気づいたか。どういたしまして。」


彼女は俺に抱き着いてきた。若い汗と香水の匂いがするが、不快ではない。


「おいおい、アイドルがそんなことしたら、ファンが真っ青に驚くか、真っ赤になって怒るだろ。」俺は笑う。


「だって…」遥は頬を赤く染めながら言う。


「これ以上は、遥が俺に塊を10個持ってこれるようになtってからな。」

塊とは帯封のついたあれである。


「今、オリジナルグッズの企画を始めたの。

色違いで女の子用、男の子用両方だから、結構いけると思うよ。」


「お前は調達ルートとか販売チャネル持ってるのか?」俺は聞く。


「うーん。事務所にお願いしてる。」


「お前の事務所は元モデル事務所だし、アイドルグッズくらいならさておき、独自ブランドの拡大は厳しいだろ。

青木には言っといてやるから、赤井化粧品とコラボしてグッズを作れ。

プロモは同世代の女を紹介してやる。」


青木エルは事務所の社長で、俺の女の一人だ。


「同世代の女って、あなたの女?」遥が聞いてくる。


「いや違う。まだな。見どころはありそうだから、遥と組ませたら面白そうだ。」

俺は橙子のことを考えていた。


「ふーん。」遥はちょっと不満そうだった。


そこへ、青木エル社長がやってきた。上品な青いワンピースに身を包んでいる。


「はい、お子様の時間は終わりよ。」そう言うと、これ見よがしに俺にキスをする。


「じゃあ、遥。またな。」


俺は青木エルの車でホテルに行く。

地下駐車場からまっすぐスイートルームへ直行だ。


青木エルが抱き着いてきた。

「まあ、シャワーを浴びような。」

俺は彼女をなだめる。


シャワーを浴び、黄色いバスローブを羽織っエルがベッドにやってくる。


中は全裸だった。


「今日は黄色なんだな。」俺はいう。



「どうせ、きのう赤い女に会ったんでしょ。あれのことだから、考えなく白いの着てたと思うんだ。だから黄色。」


女というのはライバルのことをよくわかっているものだな。俺は思う。

明日のボートレースは青と黄色だ。つまり4番と5番になる。


「おい、遥のオリジナルグッズ、赤井の化粧品で作って、販売も俺のほうで仕切るからな。もちろん事務所へロイヤルティは払う。」


ビジネスはビジネスだ。 青井もうなずく。 「あの子、結構商才ありそうよ。」

評価しているらしい。



「ま、野暮な話はここまでだ。」俺は言い、得るの豊満なボディを楽しむ。大声を出すのもいつものことだ。



「そういえば、きっと明日は黒の女ね。」エルがベッドでいう。


「さあな。用事も色々あるしな。」俺ははぐらかす。


「遥も入れるの?桃色はボートには無いわよ。」エルが釘を刺す。


「橙の子も見つけた。桃色と橙色で8色なら、競馬もできるからな。」

俺は笑うが、結構本気だ。



「ホント、あなたは色集めが好きね。毎日遊んで色集めが趣味。そう言えば聞こうと思ってたの。」



「何だい?」


「あなた自身の本業は何? あと、あなたの色は何色なのよ?」




































「俺は、無職だから無色さ。」




(完)




===

私の若いころの思い出です。(嘘)

黒の女というのは、黒川瞳といいます。

みんなどこかで聞いたような名前ですけど、気のせいです。


お読みいただき、ありがとうございました。

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特に短編の場合、大体が一期一会です。


袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。


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…もちろん私が最初に幸せになるんですけどね(笑)。
















緑山蘭子は「加賀のお蘭」から取ってるけど、ググらないと無理よね~

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