第31話、花束のプレゼント、結局しっかり目立っちゃう





「うはっ。頼まれちった! どうする歌っちゃう? 防虫の歌?」 

「そのような歌、魔法があるのですか?」

「うーん、探せばあるかもだけど。すぐには出てこないね」

「でしたらマーサーが普段よく使っている音系(サウンド)の魔法を! あの魔法ならば、一度にしとめることで可能かと」


テンパりあたふたしつつも。

しっかりみんなより前に出て、風魔法の準備を始めるマーサー。

何かリクエストはありませんかね、なんて軽い調子で問いかけると。

すぐにそんなタカの言葉が返ってきた。

 


「了解、いつもの十八番だな! 」


マーサーは早速とばかりに呪を紡ぎ始める。

太陽線が光を導くものであるのなら、パラサイセクトに効果があるのもまた『光(セザール)』の魔力であろうと予測を立てつつ。

 


「薫るように花びら散らし……形無き言の葉よ、我が声(ちから)を借りてその姿を示せ! 【ヴァルサド・ボードゥエル】っ!!」



マーサーがそう歌うように唱えた瞬間。

太陽線が呼応するかのように眩しい光を放って。

その奔流が彩られながら、辺り一面を駆け巡っていく……。

それはまさしく光の花であり、歌であった。

 


「光の花。だけどちゃんと香りがある……」


誰かのそんな呟きとともに、その場のみんながそう思った時。

黒いもやと化していたパラサイセクトの群れは。

あれよあれよという間に、光の波に飲まれるように霧散してゆく……。

さらに、カズたちだけでなく避難していた人々の石化も解けていって。

 


「ほっ。治った」

「やるじゃん、マーサー!」

 

トールやカズが安堵の声を上げる中。

その結果に一番驚いていたのはマーサー自身だった。


【ヴァルサド・ボードゥエル】は、初級の音(サウンド)系魔法で。

弱いアンデットやゴースト等を消し去る程度の技だったのだが。

今の威力は軽くそれを凌駕していたからだ。

それが、太陽線の力であることは知る由もなく。

マーサーは何か知らんけど目立ちすぎだろうと呆然とするのみである。


そして、その激しい光は留まることを知らず。

プロティーバードをもひるませ、そこに大きな隙が生じた。


その隙を逃さないとばかりにダイスが腰を据えると瞬間。

ダイスの拳に辺りの光が収束していく。

 

「【聖光拳(ウィルオ・ナックル)】っ!」



正しく用意されていた色とりどりの光を身に纏い、。

踊るような華麗さでダイスは高速の拳を打ち込んでいって。


薄緑色のマントがはためく間もなく。

決着。



声も上げず倒れてゆくプロティーバードから目を離すことなく。

ダイスは一つ息を吐く。

……と。


 


「うにゃあ。 ボクは食べてもおいしくないでしゅよ~!」

 

どこかに隠れていたのか、そんなディノの声にダイスが振り向くと。

カズがディノを抱え込んでいた。

 

「このっ、大人しくしろっ。どっから入ってきやがった?」

「は~な~す~で~しゅう~っ」

 

ぶしゅううううっ!

ディノはそう言うと口から思い切った勢いで発射された水をカズの顔面にぶつけた。

 

「ぐおっ? お前っ、やってくれたな!」


半ギレ状態のカズが手のひらに炎を生じさせると。

ディノは慌ててマーサーの背後に隠れる。

 

「ざま~みろでしゅう~」

「くっ、おいっ。マーサー、そこをどけっ」

「あはは、カズ。水も滴るいいなんちゃら? ってか」

「まとめて燃やすっ」

「うひゃあっ、逃げるでしゅう~」

「逃げるでしゅー」



毎度おなじみな不毛な追いかけっこの中。

それを見て優しげな微笑を浮かべるダイスに、同じく微笑みを浮かべたタカが声をかける。


「やあ、とてもいいタイミングで駆けつけてくれました。助かりましたよ。大変な決心だったとは思いますが、本当に感謝しています」

「ううん。そんなことないんだ。ただ……」


そう言って、足元を走ってきたディノをひょいっと拾い上げる。



「この子たちが苦しんで、困ってるって知ったら、いてもたってもいられなくなってさ」

「そうだろう。その通りさ。どうやらダイスは気づいてくれたみたいだな」


そう言った熱い感情が好きなトールは頷いて燃えている。

そこでダイスは照れくさそうにしているケイと目が合った。

 

「ふっ。さっきまであんなに偉そうなこと言っていたのにこれだものな。また助けられて。やはりオレ様はお前が背中にいないと力が出ぬようだ。全く、いつまでたってもこの我侭は治らないな」

 

そう言って、ケイは頬をかいた。

 

「それは、僕だってそうだよ、ケイ。きっとこれからもこうやって考え込んで横道に逸れたりするだろうからさっきみたいに活を入れて欲しい」

「ああ、任せとけよ」


二人はそう言って笑いあい、がしっと握手を交わした。

 


「うん、仲良きことは美しきかな、だな」


二人の深まった友情に再び感動しつつ、トールはそんなことを言った。

 


「ナニっ? お前らそんな仲だったのかっ!?」


それまで、マーサーを追い掛け回していたカズは耳ざとく向かってきた。

 

「いきなり来て何を……」


ケイが何か言い返すより早く。


「いやっ、違うな、ダイスの奴は万人万物に優しいから、合わせてあげているにちがいないっ! 中等部の頃からケイがナンパ師だって有名なのは知っていたが、まさか、両方オッケーだったとはっ!」

 

ビシイッ! っと効果音がつきそうな感じでカズはケイに向かってそうまくし立てた。

 

「なあっ!?」


カズの勢いにケイがたじろいでいると、思いもよらぬところから口撃がきた。

 

「ひとりじゃ満足できないらしいですよ」


タカが、カズを見ながらぼそっと笑顔のままつぶやく。

 

「っ!? 今更そこを蒸し返すかっ」


カズは、慌ててケイから距離をとる。

 

「オレは食べてもうまくねえぞっ」


そして、びくびくしながら先ほど聞いたばかりのとんちんかんな言葉を口にした。

 

「ふふふ。お前は既にオレサマのたーげっとナノダっ」


どうやら会話に入りたかったらしいマーサーは、ケイのまね(のつもり)をした。

 

「似てないっ、激しく似てないぞっ」

「ひいいっ!?」

 

ケイのツッコミを違った意味で解釈したらしく、カズは声を上げて逃げてゆく。

 


「大丈夫、オレはケイのそういうとこ、気にしないから」


タカたちの悪乗りに気づいているのかいないのか、トールはケイの肩を叩いて言った。

トールの本気な言葉を受けて辺りに沈黙が訪れる……。



「ごっ、誤解だーっ!」


ケイの空しい叫び声がこだまする中。

春の季節独特の薫る風が辺りを包む。

それはまるでマーサーの歌が伝える幻想のようにも見えた。


「おもしろい人たちでしゅね。ダイスしゃまのお友達は」

「うん、そうだね」


ディノが何気なく言ったその言葉が。

本当に嬉しくてダイスは今日一番の笑顔を浮かべる。

いつのまにかダイスの腕の中に落ち着いていたディノは、ダイスの嬉しそうな顔を見て、なぜか自分自身も嬉しくなっていくのを感じていて。

 

 

そんなディノがダイスの従属魔精霊になると言い出したのはそれからすぐの事で(ディノ曰く、家に帰るまでだそうだ)。

ディノが、ダイスの記念すべき従属魔精霊第一号となった。

その瞬間でもあって……。



   (第32話につづく)






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