第27話、スピリッツ、あくまでも不自然に、反則技を





トールの活躍によって敵が倒れたのにも関わらず、人々の混乱は収まりそうもなかった。

タカの言葉通り、まだ魔物が潜んでいるの可能性が考えられて。

 


「とにかく、みんなを何とかするのが先だっ」


そう言ってトールが近づいた時、驚くべきことが起こった。

 

 

「ぎゃああああ……」


人々は叫び声を上げ、次々と石の塊と化してゆく。



「こ、これは!? ユートの言っていた……?」

「とりあえず、石化解除の魔法をっ!?」

「ちっ、オレとしたことが、気づかなかったぜ」


なんと、もう既にカズは足首まで石と化してしまっていた。

 

「う、うおっ」

 

トールも石化が始まったのか、バランスを崩して倒れてしまう。

 


「どこだ、どこにいる?」

「魔法か……いや」


タカは思考を巡らせた。

我を失い同士討ち、さらにその後、石と化す。

二種同時効果の魔法かとも思ったが、それならばいきなり石と化したカズたちの説明がつかない。


それならば。


「対象の抵抗力によって変わってくる感染症のようなもの、ですか?」


抵抗力の低いものに起きるショック状態が、はじめの混乱であり、そこから石化が始まる。

確かそのような呪術があったことを、タカは思い出す。

 


「感染症だって?」

「恐らくは。近くに媒体となるものがあるはずです」


そう言ってタカは目を閉じ、集中力を高める。

 


ブーン……。

虫の羽音のようなものが間近に聞こえて。

はっとなり、目を開けた。

 


「なっ!?」


いつの間にか集まっていたのか、何百何千ともつかない小さな羽虫がタカたちの上空を覆っていた。

 

「こ、こいつらが、石化の原因かっ!」


わらわらと集まってくる羽虫たちを追い払いながら、ケイは言った。

 


「そうです、確か名前はパラサイセクト。尻尾の針に気をつければ石にはならないはずなんですが……」


そうは言ったが、前の音波攻撃をするギャンザーシザーもタカの知識にないものだったので、はっきりと言い切ることはできなかった。

 


「うおおおっ。く、口に、耳に入るぅー!」


思わず倒れたままのトールがそんな声をあげる。

 

「よし、まかせておけ! 【ライズ・ブラッシュ】ッ!」


ケイの魔法が砂塵をあげ、パラサイセクトを吹き散らす。


「うわっ、ぺっぺっ。何しやがるっ!」

「あああ、は、鼻に入るぅーっ」



動けないでとばっちりを受けてしまうカズとトール。

そしてさらに悪いことにさほど効いていなかったのか、すぐにパラサイセクトは戻ってきた。

 


「うむ、あまり効果なしか」

 

さすがに石化能力を持つだけあって、ケイの【地(ガイアット)】属性魔法は効きにくいようだ。

 


「この数を一度に何とかできなければラチがあかないようですね。あるとすれば、音系(サウンド)の魔法か、それともあれを……」

 

タカがそう考えた時。


 

何か大きなものがやってくるような地響きがする。

それは、先ほど同じプロティバードのものだった。

五体はいるようだ。

 

「くっ、これだけパラサイセクトがいると、結界を直すヒマも」

「おいおいやべーぞっ、あいつらに殴られたら叩き壊されるっ!」


もう腰まで石と化したカズが言う。

 

「そ、そうか。やつらはそのためにいるんだな」


同じく半身を石と化したトールが倒れたまま呟いた。

 


「……参ったな、タカ。一人でやれるか?」

「えっ?」

「なははっ。悪い、オレ様も石になっているようだ」


ケイまでも石と化した足元を見て言う。

 

「え、えええっ」


いよいよもって、ピンチというやつだった。




 

 


そんな、みんなにピンチが訪れる少し前。

『家庭科室』のダイスに宛てがわれた一室で。


 


「あの、マーサー」

「ん、何?」

「わ、僕が言うのもなんだけど、マーサーはどうするの?」


待っている最後の一ピース。

ダイスは、いつものように『変わる』素振りすら見せないマーサーに思わず聞いてしまった。

マーサー? との間にしていた頼みごとの進捗状況も気にはなったけれど。

外の騒ぎは増すばかりで一向に止む気配がなかったからだ。

 


「うん、あのさ、流石に五人全員が同じ行動をしたら、マンネリだって思われるかもしれないでしょ」

「……誰に?」

「それはもちろん、ダイスにさ。だから僕としては人とは違う行動を取ってみたかったりするわけで」

「そ、そんな風には思わないけど」

「あ、冗談だから間に受けないでね」

「……」


マーサーがこの場を和ませようとしているのは分かるのだが。

あまり近くにいそうでいないタイプであったからこそ、戸惑う事しかできないダイス。

失敗したかな、なんて笑ってマーサーはその場を誤魔化したかと思うと。


「あ、ちょっとトイレ。じゃなかった。みんながいれば大丈夫だとは思うけど、ダイスの言うようにちょっと様子見てくるよ」


そんな事を言って手のひらをひらひらさせて。

まったくもって緊張感なく、鼻歌なんぞ口にしながら部屋を出て行くマーサー。


「……あっ」


そんな、一連の何気ないマーサーの行動が。

もしかしたら本人は無自覚なのかもしれないが。

『変わる』前段階、その合図であることに気づいて。


何もわからないままに『こちら』へとやってきて。

だけどそんな戸惑いと恐怖めいたものにすぐさま気づいてくれて手を差し伸べてくれた救世主。

本人が聞いたらとんでもないことだとオーバーなリアクションするんだろうな、なんて思ったらおかしくなって。

結果的に心落ち着いて和んでいる自身を、ダイスは自覚していて……。


 

    (第28話につづく)






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