第26話、乱舞、闇色勇者の流されし初戦




ケイが、部屋の外へと出ると。

そんなケイがすぐに出て来るのが分かっていたかのように、タカがそこに佇んでいた。


 

「決心は、つきましたか?」

その言葉を聞いてケイは思わず不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふふ、なるほど。故にあのようなタイミングでエフィの話をしたのだな」

「ええ、まあ」


タカも返す刀で曖昧な笑みを浮かべた。

 


「決心、決心ならついたぞ」

「ほう」

「タカと同じさ。いや、違うか。オレ様はタカやユートのように一途にはなれないようだ」

「い、いきなり何を言うんですかっ」

「おお、タカが取り乱すのを久しぶりに見た気がするな」


そう言ってケイはフハハと笑う。

 


「……まあ、とにかく、ケイはダイスを置いてはいけないということですね」

「これだものな、タカにはなんでもお見通しか。ま、そうやってストレートに言われると何だか怪しい関係みたいに聞こえるが、そういうことになるんだろうさ。オレ様はまだダイスに何の罪滅ぼしもしちゃいないからな」



ケイは、そう言って昔を思い出したのか目を伏せる。

幼き頃から知っている間柄ではあるが。

どうやらダイスとの間に、相当な何かがあるようで。

 


「見切りはつけられそうですか?」

「あっさり言うねえ。まあ、オレ様は会長サマみたいにしつこくないからな。去るもの追わず、さっぱりってか」

 

そう言っておどけた笑みをケイは浮かべ。

 

「ものすごく引っかかる言い方ではありますが……まあ、いいでしょう。文句は後回しです。とにかく今は急ぎましょう」

「ああ、そうだな」


タカは苦笑しながら。

ケイはふぁさっと髪をかき上げつつ。

連れ立って騒ぎの現場へと急ぐことにして……。








風切る大仰な拳による連撃を、バックステップで避けつつ。

トールは辺りを見回した。


『家庭科室』に避難してきていた人々は何やら術に掛かり興奮状態にあるのか、カズの健闘むなしくこの場を離れる様子がない。

 

敵は二体。

紫色の体毛を持った筋骨たくましい二足歩行の鳥顔持ちし魔物、『プロティバード』。

名前など知らなくても、飛ぶことを捨て、翼を硬化させたらしいその拳は。

武器ごと破壊しかねない力強さを持っている事が分かるだろう。

それでも、何とかその攻撃を避け、あるいは受け流しながらトールは叫んだ。

 


「おいカズっ、こっち手伝ってくれ!」

「ああ、分かってるよ! でも、みんなの様子が……」


この場からの避難を促そうとして、改めて周りの人々の様子がおかしいことに気づかされる。

苦しそうに呻く人々、凶暴性を表すかのようなその瞳。

 


「まさか、あの紫の奴がやったのか?」

 


ギィアアアァァッ!

そう言うが早いが、周りにいた人々は一斉にカズに襲い掛かってくる。



「げっ? マジかよっ」

 

あっという間に小さなカズの体は人の波に飲まれる。

 

「いてっ。うおっ? くそー。む~~っ!」

 

プライベートスペースがなんだかんだ言って狭いカズは。

すぐに癇癪起こしたかのように唸ったかと思うと。

無詠唱で威力は弱いながら、爆発系の魔法を地面に叩きつけたようで。

爆風に押されて周りの人々が吹き飛んでゆく。


そこには、砂埃とカズだけが残った。

 


「ゴホッ、ゴホッ。あれ? 何なんだ一体?」


たいした威力ではなかったので、すぐ起き上がってきたはいいが、今度は互いに仲間割れを始めたのだ。

 


「とりあえず、止めねーと! おいっ、トール! 悪いけどそっちは頼むっ」


カズはそういいながら人々の波に突っ込んだ。

 

「お、おい! そりゃねーぞっ」

 

相手の攻撃が単調なのが救いではあるが。

このまま受け続けていれば剣ごと破壊されかねない。

トールは再び下がって間合いを取ると、天の構えをとった。

 

その隙をつくように、プロティバードの一匹が、両腕での連撃を繰り出してくる。

 


「いまだっ、【離乱刃】!」

 

だが、トールが狙っていたのは、まさにそのタイミングだった。

トールは上段からプロティバードの拳の出所へと突っ込む。

そしてそのまま柄を相手側に返しつつ手を離した。

 

放たれた刃はまるで生きているかのように相手の腕の中を暴れまわり、刻んでゆく。

相手の手数を利用して切り刻む、特殊太刀の一種だ。

 


「ギョケッ!?」


腕を封じられたプロティバードの一匹は声をあげる。

それに反応したのかもう一匹が接近してきた。

繰り出してくる拳をなんとか持ち替えた短刀で受けるが、勢い余ってトールはそのまま弾き飛ばされる。

 


「ぐっ」

 

しかし、それさえも予測の範囲だったのか、飛ばされつつも続き魔法発動のための文言(フレーズ)を口にする。

 


「……【コンダクト・ニードル】っ!」

 

ズドン!


「ギィッ!?」

 

一筋の雷が、離乱刃によって手放された剣へと落とされて。

後には、えぐれた地面と黒コゲになったプロティバード二体の姿があった。

 



「ほうほうほう! やるではないか」

「敢えて相手の一撃を受けることによって、コンダクト・ニードルの効果範囲から逃れたのですね。さすが、トールならではの戦い方です」

「ハハ、それほどでもあるけどな」

「お、お前らー、しゃべくってる暇あったらこっちを手伝えー!」

「ん? これはどうした? 民(みんな)の様子がおかしいぞ?」


カズに言われて、トールとちょうど駆けつけてきたタカとケイの三人は人々の異変に気づく。

 


「っ! まだ他にも魔物が?」

 

プロティバードが倒れたのにも関わらず、人々の混乱は収まりそうもない。

タカの言葉通り、まだ魔物が潜んでいるのではと思われた。

 


「とにかく、みんなを何とかするのが先だっ」


そう言ってトールが近づいた時。

さらに驚くべき変化が避難してきた人々に現れて……。



   (第27話につづく)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る