第24話、secret progress、頼まれごとは未解決で申し訳なし




「ダイス、タカです。失礼してもよろしいですか?」


タカが代表して、ドアをノックする。

 


「あ、はい」


ダイスが返事し終わるよりも早く、競うようにしてなだれ込んで来たのはケイとカズだった。

 


「ちーっす。お邪魔するぜー」

「体のほうは大丈夫か? あんまり無理はするなよ」


もちろん、今までベッドに伏していたのは知っているのだろう、それに対して気遣いつつも二人はダイスに笑顔を浮かべた。

 


「うん、大丈夫。もう平気だよ」


ダイスはそんな二人に対して穏やかに答えた。

ダイスも、ケイと同じく中等部(セントレア)からの入学組だ。

ケイとはそれこそ幼い時からの馴染み、とのことで。

ダイスのことはオレ様が一番知っていると、大きく胸を逸らして宣言することはばからない。


故にこそ距離が近く、対応に苦慮していたこともあったが、悪い人物ではないどころか妙にダイスのことを気を使ってくれるので、申し訳ないと思いつつもとみに感謝していて。

 


一方の、出会う前から音に聞いて有名人であったカズのことは、こうして親しい間柄となっても驚くことが多かった。


似たような境遇ではないのかと思ってもっとお近づきになりたいのに、オレは男だぁ! と時には可愛らしい剣幕で。

時にな泣きそうな勢いで主張してくるのでダイスとしても戸惑うしかなくて。



「思ったより元気そうで何よりだよ。剣もなしに叶わぬと思ったダイスがモンスターに襲われてけがしたって聞いた時が肝が冷えたしなあ」

「話は……事情は知っているつもりです。とりあえずのところは顔を見に来ただけですので。ユートも少し焦っていましてね。急かすようになってしまったことは申し訳ないと思っています」 



続き失礼しますと一言置いてから入ってきたのは、トールとタカの二人だった。

二人には少し申し訳ない部分もあるが、あるいはダイス以上に才能に溢れ、体格にも恵まれている二人は。

気を使ってくれていることが分かってしまうからこそ、動けないどころか内心逃げ出したい自身がふがいなくて。


本当ならば今学校に降りかかっているこの『大事件』に抗い解決に導くためにとそのメンバーに率先して参加するべきなのだろうが。


タカが言う通り、今はまだ心が今に追いついていないから。

準備が出来るまでこうして待ってくれている。


それに心苦しい気持ちでいると、満を辞してとばかりに最後に現れたのはマーサーだった。


と言うよりトリをつとめることとなったのは、あるいはダイス以上に申し訳ない気持ちがあったからなのかもしれない。


こんな僕がやってきましてごめんなさい、とばかりにぺこぺこしつつ。

ジェスチャーと瞬きなどで、例の任務は未だ未達成であります! とかしこまっている。

 


ダイスはそんな面白行動をしているマーサーにこっそり苦笑を浮かべつつ。

同期で最小学級からの付き合いでもある友人たち5人を、ダイスは改めてお茶菓子を用意しつつ迎え入れた。





ここにいる六人(+α)は。

当然のごとくで、一緒に行動することが多かった。

故に、タカが最少人数だけ揃えて今ある危機へ立ち向かっていくと宣言した時。

六人目がダイスであることは、当の本人であるダイス以外はすぐに納得していて。

 


「そっか。ユート君先に来てたんだ。それじゃあ僕たちが来るのも折り込みずみでわけだねぇ」

「ふふ。そういうわけじゃないよ。こうして引きこもってても、みんなの声が聞こえたから」

「カズが、キャンキャン騒ぐからだぞっ」

「てめーが、言うなぁっ」

 

こんなやりとりが、ひっきりなしに聞こえたんだよとは口には出さず、ダイスは笑顔で返す。

  


「なるほどー」

 

妙に納得したマーサーとともに、トールとカズは口をつぐんだ。

そんなタイミングを見計らって、タカはダイスに告げる。

 


「今回の魔物たちの襲撃と、『職員室』の『事件』についてもうご存知ですよね? ダイスの力が必要なんです。怪我の治りたてできついとは思うのですが、私たちに力を貸していただけませんか?」

「……ごめん。そうしたいんだけど、今出て行っても足手まといになるだけだと思うんだ。むしろ、何の役にも立たないかもしれない」

「えっ? そんなことないでしょう。それなら僕のほうがよっぽど役立たずじゃない?」


唯一事情を知りつつも。

敢えてマーサーが言うのも謙遜ではなく。

武器を持たずしての単純な格闘能力として考えれば、ダイスはここにいる誰よりも上だと言えた。

 


「……違うんだ、違うんだよ。僕には……やっぱり無理なんだ」

 

だんだんと暗く沈むダイスを見て。

イライラしたのか、カズが口を挟んだ。

 


「だぁーっ。暗い、暗いぞっ! オレってこう言う雰囲気苦手なんだよっ、何が無理なんだって? 主語を言えっ、主語を! いや、この場合は述語か?……って、そんなことはどうでもいい。とにかくだ! こういうことは前向きにだなっ」

「あー。分かった分かった。カズの言いたいことは分かったから。とりあえずさ、良かったら事情を話してくれ。ダイスほどの腕の持ち主が無理だって言うのには訳があるんだろ?」

 


トールはカズを押さえ込むと、ダイスを諭すように。

この感覚、ここ最近気をつけている気遣いと同じじゃないかと内心思いつつそう問いかける。

 


「あっ、てめっ、オレが言おうとしたことおぶふうっ!?」

 

さらに何か言おうとしたカズだったが。

ぱっと離れたトールの代わりに、喜々としてカズの豊富に過ぎる三色の髪により上手く状況を伺えない、背後のポジションを獲得したマーサーが。

流れる程に自然な動きでよくよく囀る口元の手のひらをもってくと、まさに効果てきめん。

それきり大人しくなっていて。

 


「さ、どうぞ」


そんなマーサーの行動を当たり前のものとして受け入れているトールは。

変わらず人好きのする笑みを湛えたまま、ダイスを促して……。



     (第25話につづく)






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