第18話、フェイク、もしかしたらアイの怪人より周到で
此度のユーライジアにおける魔法と魔物と魔精霊の絡んだ『事件』は長引きそうな予感がしていたタカではあるが。
彼女たちを取り巻く問題を後々に持ち越すのは、あまりよろしくないと思っているのも確かで。
これは早々に頼もしき同級生たちの力を借りて『事件』の解決に動かなければ、なんて思いつつ先を促す。
「……まぁ、トールのことだから大丈夫ですよ。それより、何か用があって来たのでしょう?」
「あ、そうそう。センパイ。ユートくんから連絡来ましたか? もしよかったらエフィちゃんに代わってあげてくださいよ。ねっ」
「ま、マリアちゃん、ちょっと」
「あ、じゃあ今度ぼくが最初にでたいよー」
そんな三人の少女の場違いなほど明るい雰囲気。
マリアあたりは、何が起こっているかもわかっていて。
敢えて明るく振舞っている部分もあるのだろうが。
そう言えば意外とマリアに対しては、シュンとは別の意味合いをもって、トールが比較的接しやすそうにしていたのを思い出す。
例えるのならば、タカとトールの間柄のような、幼馴染みな悪友めいたもの。
一瞬、そのことに嫉妬めいた感情が浮かんできて。
一体どっちに対してだよと、タカは内心で素の自分を出しつつツッコミながらも。
ひとつ咳払いして、切り替えながら言葉を返す。
「もう少し待っていただけますか。どうも連絡がつかないのです」
「え、そうなの? でもでも『連絡機』壊れてるわけじゃないんでしょ。誰も出ないってどういうことなんだろ?」
「もしかしなくともけっこうたいへんな状況?」
「そ、そんな」
好奇心から出たシュンのその言葉に今度は一変して場が暗くなる。
それでも、タカはいたって冷静に敢えて心配ない、とばかりに切り返した。
「いえ、もう少し待ちましょう。ユートのことですからそのうちに……」
プルルルルルルッ!
タカが言い終わる間も無く、通信のベルが鳴る。
しかし、それは『職員室』からではなく、『家庭科室』からの連絡だった。
喜び勇んで受話器を取ろうとするシュンをさらりとかわし、タカはそのまま応対する。
「もしもし、タカ・セザールですが」
『先輩! 良かった、繋がった! ……あ、あの、大変なことが起きてしまいましたっ』
案の定、『連絡機』越しの相手はタカが想像していた通り、同じラルシータスクールから出向、転校してきている後輩のユートピオ・セザールであった。
繋がったことへの安堵感と、それをも超える焦燥感。
やはり重大な何かがこのスクールで起こっている。
それでもタカは、周りの少女たちに気を遣いつつ。
極力冷静になるよう努めながらユートの続く言葉を待った。
『職員室に集まった生徒、先生方、全員原因不明の石化により戦闘不能状態になっています。状態異常解除の魔法、【ディクアリィ】を試みましたが、私の魔法の力では解除にまで至らず……申し訳ありません』
「っ! ……そうですか」
悔しそうなユートの呟き。
そうは言うものの、ユートの治癒魔法系統の腕はけっして低くはないので。
恐らくは、石化をかけた術者をどうにかしないと解けないタイプのものなのだろう。
タカはそんなフォローをしつつも、瞳を閉じて深呼吸する。
全くこのような事態を予測していなかったといえば嘘にはなるかもしれないが。
でもそれでも、誰とも知れぬ此度の『事件』の下手人たちの迅速な行動に驚きをもってどこか感心している部分もあった。
そのまま二の句を告げないでいるユートに今後の行動の手助けをするべく、タカは続ける。
「そちらには、召集がかかっている生徒はいますか?」
『は、はい。ダイス先輩がいらっしゃいます。どうやら、職員室には行ってなかったようで』
そんなユートの言葉を聞き、タカはしばらく考えた後。
「そうですか、それは朗報ですね。……まぁ、招集に応じるかどうかは本人の意思に委ねられはしますが。一応タカ・セザールが助力願っていたと声をかけておいてください。ユートにはその答えに関わらずこちらに帰ってきてもらえると助かります」
『はい! 了解いたしましたっ』
そう言付けた後、魔導機械とも呼ばれる『連絡機』の通信を切って。
「……何かあったんですか、センパイ?」
「タカ様! ユートくんはっ」
「なになに、何なのー? 何があったの?」
案の定、いっぺんに一詰め寄ってくる三人娘たちを制し、タカは起こったこと、聞いたことを、タカなりに噛み砕いて口にする。
「……まあ、そういうわけなので、これから職員室のほうへと原因解明に行ってきます。自分の目で確かめないと分からない部分もありますからね」
「ぼくも行くよっ」
「当然私も連れてってくれるんですよね、センパイ?」
「わ、私も……」
「もちろんです、と言いたいところですが。皆さんには最終防衛の場となりうる『保健室』にいてもらいたいのです。ユートも戻ってくることですし」
そんな三人娘にタカは、ある意味にべもなくそう返す。
「あ、そういえばそういう約束でここにいるんだったっけ」
「ユートさん……はい。待っています」
「えー。わたしはそんな約束した覚えないし、エフィちゃんがそうならわたしはセンパイについていきたいなぁ」
しかし、シュンとエフィがすぐ納得する中、マリアだけはしつこく食い下がってきた。
「いや、ですから……」
何だかんだで、特にマリアをこの場を守護するための要として考えているのです、などとは言えず。
タカが言葉につまり、迷っていると。
何かを破るような、引き裂くような音が外から響いた。
「その話は後にしましょう!」
その時。
密かに、よし、このままうやむやにしてしまおうと思ったタカは。
そう勢い込んで、そのまま外に飛び出していく……。
(第19話につづく)
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