第14話、瞬間、ワクドキを眺めていたい本質悟られる
と、その瞬間である。
マーサーのモブでありたい気持ちに反発したのか。
突如左手にできた縦断する手相……手のひらのしわが鈍く明滅を始めたではないか。
「なんや、その手のとこ? 光ってるで」
「あ、それって太陽線(デル・ライン)じゃない?」
「何それ。知ってるのカズキ?」
「うん、その手相が出ると、えっと。確か、んと……。ツキまくったりスターになったり? って聞いたよ」
「え、マジでっ? 凄くメイワク……じゃなかった。何だかとっても良さそうじゃん」
「本音が一瞬出とるで。ってかそれって手相の話やろ?」
「うん。カズ姉の話だとそこに魔力が加わることでいろんな影響があるんだって」
「あー、信ぴょう性があるようなないような……ビミョウなところやな」
ううむと悩みつつ懐疑的なホシナをよそに。
名前が似ていることもあって憧れな先輩らしいカズから聞いた話を、カズキは素直に信じているようであった。
「まぁつまり、とにかく運だけは良いってことだよな。それならまぁ、あって悪いものじゃないし許容範囲かな」
「運だけ? 相変わらず、マーサー兄は面白いこと言うよねぇ」
「ははっ。確かにウケるわな。運は運でも悪運の類じゃなきゃいいけど」
「これから冒険に向かう男に向かってなんて不穏なセリフ」
「そんな事言うて、そう言うトラブル望んでるんと違う?」
「ははは、まさか」
言い得て妙というか。
カズキの揺るぎない信頼めいたものスルーした間隙をぬって。
ホシナのそんなマーサーの本質をついた言葉が飛んでくる。
マーサーは苦笑して色々誤魔化しつつ。
いざ保健室、正式に言えば『第一保健室」へと向かうのであった……。
※ ※ ※
―――魔物の巣窟と化した校舎の一角。
その場に相応しく似つかわしくない、身の毛よだつほどと歌われる美しき姫君とその忠実なる愛玩動物は。
凶暴化した魔物たちに囲まれ、成す術も無く危機に陥っている……わけがなかった。
「【イクス・カムラ】っ!」
「おらぁっ。氷やがれぃっ、【ルシェル・ブレス】!」
そのふたつの魔力込められし声が木霊した途端。
青と赤、【氷(ルフローズ・レッキーノ)】と【炎(カムラル)】の魔力が踊り。
凍てつかせてはそのまま爆砕し、周りを囲んでいよいよもって獲物を追い詰めた気になっていた魔物たちは物言わぬ破片となってばらばらと散っていく。
「おい、ルッキー! 手え出すなっつったろ!」
「あーん? 知らないね。よわっちい人間が『助けてー』って言ったから助けてやったんだろ?」
ちなみに、姫君なのだけど蓮っ葉にすぎて。
忠実でも愛玩されるようなタマではないのは言うまでもない。
カズキの心配をよそに、必要以上に元気いっぱいなふたりは。
当然のように探していたルッキーと、マーサーより一足早く保健室へと向かっていた、カズ・カムラルであった。
「なんだとお! それは、お前のセリフだろう?『助けてーぼく食べられちゃうー』って!」
「あ? 一言も言ってねーだろ、んなこと」
「何だよ、せっかくここまで頼まれてお前を助けに来てやったのによ。要らない世話だったか?」
「たりめーだ。余計なんだよ」
「そっか、そうなのか……」
カズは、ちょっとトーンを下げて。
「ルッキーが心配だって、ヒロに(本当はカズキ)『泣いて』頼まれてきたんだが、しょうがないな。そう伝えとくよ」
「え?」
「今のルッキーの言葉を聞いたらヒロ怒るかな? いや、また『泣いちゃう』かもしれないな」
「うう、いやその、何だ。今のは」
途端に焦りだすルッキー。
喰らう、寝る、遊ぶが基本概念だと自負するルッキーであるが、何よりも優先すべき存在が従属魔精霊契約をしているヴァーレスト家の者達なのだ。
特にルッキー的にご主人さまだと思っているヒロにはとみに弱く、契約そっちのけで懐いているといってもいい。
ルッキーは、ヒロの泣き顔を思い出して、青白い顔をさらに青くさせた。
「なーんてな。う、そ」
「…………」
「……てへ」
「こ、このクソがああああああああっ!」
―――しばらく不毛な追いかけっこ中。
しかしそれは長くは続かず。
不意にカズは立ち止まると、それまでの態度を一変させてルッキーに声をかける。
「おい、ちょっとストップ。更に追加のお客さんだぜ」
「……そうみたいだな」
黒い装束を身に纏った魔導師姿の者が二人。
そして、背後に同じように暗殺者スタイルの者が二人いた。
「ん、人間か? どう見てもでけぇし、ここの生徒じゃないみたいだが」
「違うな、もう、人間でもなさそうだ」
ルッキーのその言葉を皮切りに暗殺者スタイルの奴らがダッシュし、魔導師たちは呪を紡ぎ始める。
と。
「おそいって」
おもむろにカズは、滑るように魔導師との間合いを詰めたかと思うと。
「【イクス・カムラ】っ!」
寸前でくるりと向き直り、暗殺者スタイルの奴らに向かって【火(カムラル)】の爆発魔法を解き放つ。
不意をつかれ、一撃の下に倒れる暗殺者風情。
焦ったのか、魔道師たちは人外の奇声をあげると、同時に火の矢を放った。
だが、しかし。
赤い火の矢は、先端から青白い氷に変わり、そのまま砕けた。
さらに魔導師たちは連鎖するように氷付けになり、倒れる。
カズに隠れるようにして魔法を放ったルッキーに、彼らは気づきもせずに倒れたのだろう。
深窓の姫君でも忠実なる使い魔でもない二人であるが。
何だかんだで息はぴったりな二人であった。
(第15話につづく)
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