第9話、虹の彼方へいつか、その中身から裏側まで調べたい
マーサーは、壊れかけの校舎の中へと、何とか入れる隙間を見つけ出して。
生存者確認のために崩れた教室の残骸を除けたのと同じように、邪魔な瓦礫を放ってから、比較的無事であろう別棟に繋がる渡り廊下へと入ってゆく。
ただ移動するだけならば。
教室下にあった同じ授業をとっていた生徒たちに後を追っていくのもありだっただろう。
だがマーサーはそれをしなかった。
マーサーはどこをとっても申し分のないモブであると自身を称してはいる癖に、みんなとは違う行動を取りたがるところがある。
故に別の選択肢、方法を選んだわけだが。
そんなマーサーでも、ただただ逆張りをしている、というわけではなかった。
カズや、少し遅れて登校してきていたであろう妹たち、タカやトールといった友人たちならば。
みんなの後についていって、目立たないように……このような非日常となった原因の究明に動くことなく避難しているはずがないと思ったのもあるだろう。
だが、マーサーが別棟へ向かったのは。
その一階フロアに大抵の場所に移動できる魔法の移転装置、『虹泉(トラベルゲート)』が設置されている部屋があるからに他ならない。
それは、このユーライジアにはダンジョン内や、主要国などに複数設置されていて。
校内のものに限って言えば、『虹泉(トラベルゲート)』が設置されている場所であるならば校内のどこへでも向かうことができる仕様になっている。
例えば校門から自分の教室に行く時や、ユーライジアスクールの姉妹校へ行く時など、色々な所へ行くときに重宝する。
単純に、みんなの元へ向かいたいと言う気持ちもあるのはあったが。
『虹泉(トラベルゲート)』なるものをスクールにようになって知ってからと言うもの、何だか妙に気になってしまって。
一体どんな仕組みをもって、移動できるのか。
『虹泉(トラベルゲート)』同士を繋いでいるものはなんなのか。
こんな機会がなければ、好奇心に従って調べることはできないであろうと思ってしまったのもある。
そんなわけで誰かに見咎められる前にと。
渡り廊下をさくさく渡って、やってきたのは『移動部屋(教室でないところがミソ)』。
くだんの魔法攻撃による影響なのか、かなり立て付けの悪くなった入口のドアを何とか開けると。
瓦礫がいくつも落っこちてきてその名の通りの七色の水のようなものが、多少こぼれてしまってはいるものの。
マーサーにもわかるくらいには。
確かに複雑な魔力の波動を纏う『虹泉(トラベルゲート)』を発見した。
「うーん、これって今使えるのかな? 魔力出てるし使えそうな気がしなくもないけど」
マーサーはそう呟きつつも、持ち前の好奇心に押されて躊躇いなくその七色の泉へと足を踏み入れる。
それがカズであったのなら、身に秘める属性のせいなのか別の意味合いがあるのか、たいそう怖がってぎゅっと目をつむって時にはしがみついてきたりなんかして、いろんな意味でありがとうございますと言いたくなるマーサーであったが。
しかし、一人で勢い込んで浸かりにいっても文字通りつまらない……何も起こらないどころか確かに水のような感触はあるのにまったくもって濡れもしなかった。
「いや、濡れないし息もできるのはいつものことか。っていうか移動始まらないんだけど。どうしよう」
そんな風に一人で百面相をしている間にも、どんどん上から瓦礫が落ちてきて。
このままここにいて、天井ごと落っこちてきたりしたらたまらないと、マーサーはここの『虹泉(トラベルゲート)』を諦め、一旦外に出ることにした。
「緊急事態みたいだし、別の『虹泉』も動いてないかもなぁ。しょうがない、人のいるところまで歩こう」
遠いところへ少ない時間で移動できる『虹泉(トラベルゲート)』は現状のような危機的状況……たとえば敵、モンスターなどが攻めてきてそれを使って移動されたらたまってものではないので、緊急停止することもあると言うのを思い出したのもある。
『虹泉(トラベルゲート)』をここぞとばかりに調べ楽しみ尽くすことはとりあえず涙をのんで後回しにして。
マーズは、あっさり気持ちを切り替えて(それだけが取り柄パート2)。
何が起こったのかとにかく状況を把握しないといけないなぁと。
やっぱりわざわざそう独りごちて、マーサーは再び歩き出す……。
(第10話につづく)
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