第8話、ひとりごとが異世界めいた場所に響き、外れていることに気づけない




目の前には広がる陽光と青空を受けて。

あっさりと、覚醒。


今度こそ本当に目が覚めたのだと気づいても。

やっぱり自分が仰向けに倒れていることに気づいて。

また夢じゃないだろうなと、確認するためにマーサーは辺りを見回した。


そこには、たくさんの岩の塊、瓦礫ばかりがあって。




「えっ?」


マーサーは慌てて飛び起きる。

それにより、いくつも転がっていく何だかよくわからない瓦礫やらの塊。


どうやらマーサーは、その瓦礫にしっかりきっかり埋まっていたらしい。

それらを払いながら、どうにも混乱する頭の中を整理してみる。

 


(ええと確か、今日は珍しく一人で歴史の授業を受けてて、それから、窓の外で何か光って……) 


そう、あれは魔法だった。

【火(カムラル)】と【風(ヴァーレスト)】の魔力で合わせ練り上げ作られた爆発系の魔法。


それは、状況を判断するにかなり高位のもので。

それを避ける暇もなく、為すすべもなく受けて教室ごと吹き飛ばされて気を失ったのだろう。


今までいた教室ごと吹き飛んでその瓦礫の山に埋もれていたというのに、気を失っていたただけで済んでいる事に、尋常ならざると気づくべきなのだが。

頑なにモブであると思い込んでいる節のあるマーサーは、そんな考えには至らなかったようで。



改めて周りを見渡すと、授業を受けていた教室のあった棟……校舎だと分かる残骸が見えた。

マーサーがいた教室は三階だったが。

その場所は見るも無残に破壊し尽くされている。



「……っ、無事な人はっ? 助けないとっ」


もしかして、同じ教室で授業を受けていたクラスメイトたちや、先生が瓦礫に埋もれて助けを求めているかもしれない。


一体どれほどの被害があったのか。

運がいいのか悪いのか、勢いよく飛ばされたことでこれといって身体にダメージが無かったこともあって。

マーサーは生存者を求め、被害者がいるであろうことも覚悟しつつ、すぐさまその瓦礫の山へと近づいていく。



(魔力の気配は……ダメだ。あの爆発魔法の余韻が残ってて僕には分かんないや)


あるいはカズのように、世界に12種類ある魔力が色に見えていて、体内を流れ揺蕩う魔力構成でそれが誰であるのか分かってしまうほどではないが。

一応マーサーも、生き物が発する魔力を感じ取るくらいはできる。


しかし近くには、何者の気配も感じ取ることはできなかった。

爆発系の高等魔法の余韻が未だ残っており、【風(ヴァーレスト)】の魔力に煽られて【火(カムラル)】の魔法が活性化しているせいもあるだろう。


カズならば、いつもより激しく楽しげに踊り狂っていて手がつけられないとか言うところか。



そんな事を考えつつも、マーサーは小山と化している瓦礫を矢継ぎ早にどかしていく。

傍から見ている者がいたのならば、モブキャラだなんて飛んでもないと言われそうな怪力&持続力っぷりで。




「誰もいなかった……か」


ほとんどの瓦礫をどかしたその先には。

下へ下へ続くであろう広いスペースがあった。

それにより気付かされたのは、スクールの下にはスクールが建つ前から広大なダンジョンが座していると言う事実で。

恐らくは、マーサーが注意喚起の声をあげて吹き飛ばされ気絶している間に、クラスのみんなはそのダンジョンの向こうに避難したのだろう。


無慈悲な犠牲者が見つからなかっただけでも良かったと言うべきではあるのだが。

どうやら、マーサーはそれなりに長い時間吹き飛ばされ気絶していたらしい。


あまりに影が薄いモブだから、今回の授業でそれなりに仲のいい友達がいなかったこともあっていないことに気づかれず置いていかれたのか。

いきなりの暴威、魔法を繰り出してきた相手にすら気づかれずに捨て置かれたのか。


すっかり綺麗になって燻るものがなくなったからなのか、【火(カムラル)】の魔力……意思なき魔精霊たちもどこかへいってしまって。

乾いた風だけが、マーサーの周りを蠢いていて。

それがかえって、マーサーだけ一人異世界へと迷い込んでしまったような感覚に陥らせる。



一体、何が起きたというのだろう。

そう、考えれば考えるほど嫌な想像が駆け巡るから。


これ以上じっとしているのも嫌だと。

マーサーは改めてどこも怪我をしていないことを確認すると。

人を探すためその場を動くことにするのだった……。



    (第9話につづく)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る