第7話、扉の向こうへ、四人いるというのはミスリードなのか
「みんな、魔法攻撃がくぅっ!?」
悍しき魔力の塊であるそれが、いきなりこちらへ向かって繰り出され落ちてきているのだと。
理解してよりも早く視界が白一色になる。
激しい音と衝撃に襲われたと思ったら、白かった視界は一変して黒く変わって。
そのまま、成す術もなく。
クラスのみんなが遅ればせながらそれに気がついたところで。
マーサーの意識はそれこそ夢落ちするがごとく、抗いがたき闇に飲まれていく……。
※ ※ ※
「……っ」
一体どれくらい気を失っていたのか。
はっとなって起き上がり目を開けても、広がるのは闇ばかりで。
瞼を上げたことすら気のせいじゃないのかと思ってしまうほどで。
だが、それでも完全なる闇と言うわけでもないらしい。
だんだんと目も慣れてきて、マーサーは自身が仰向けに倒れこんでいることに気づき両手を使って起き上がろうとする。
倒れ込んでいた自分がどこまでも落ちていくことなどもなくそこにあったことから、どうやら地面自体は存在しているらしい。
まるで、ぴかぴかに磨ききったかのような地面。
両手で力込めてもつるりと浚われ転びそうになるのをなるのを何とか耐えつつ苦労して起き上がると。
体感的に手が届くか届かないかの距離に、四角の杭めいた微かな光源が三つ、マーサーを囲むようにして見えていた。
それはどうやら、三つの扉らしい。
恐る恐る近づき、触ってみると闇がどこまでも広がっているわけではなく、円形の壁が前方にはあるようだ。
後ろの方は分からないが、ここから出るか先に進むためには、その僅かに漏れている光の向こう……三つのうちどれかの扉を開ける必要があるのだと、感覚的に理解する。
そのついでにマーサーは、これは夢だろうと判断した。
なんとはなしに、こんな感じの夢をかつて見た記憶があったからだ。
現状が、夢だと言うのならば話は速い。
このまま夢を見続けるにせよ、起きるにせよ。
せっかく扉があるのだからということで、マーサーは特に悩むこともなくそのうちの一つ、真ん中の豪華なつくりの扉のノブに手をかけてみた。
「あれ、開かないや」
ならばと、その隣にある無機質で無骨な扉、逆側にある暖色系のファンシーな扉と手をかけてみるが、それらのどちらも押しても引いてもビクともしない。
鍵でもかかっているのだろうかかと、そもそもが開くようなものではないのかと。
それでも見えずらいところで三つの扉に悪戦苦闘していると。
いい加減気づけとばかりに。
無意識のままに選択肢から消してしまっていた、どこまで闇が続いているのかも分からない後ろから、これみよがしに扉の軋む音がする。
今の今まで気づかなかったのか。
それとも夢らしく突如として現れたのか。
あるいは、前進あるのみで後ろのことなど考えていなかったからなのか。
くるりと振り返ったちょうと真後ろ……少しばかり離れたところにこれといって特徴のないいたって普通の扉があり、手招くようにその口を開けている。
今は背中にある三つの扉からこぼれる光によりかろうじてその存在が分かるそれは。
案の定少しだけ開いて中を覗いてみたが、何も見えない真の闇が広がっているように見えた。
―――目覚めよ……。
「っ!?」
と。
様子見で覗き込んだだけで中に入ろうとしないマーサーに業を煮やしたのか。
先ほどの軋む音よりあからさまにはっきりと、何だかとても夢らしい声が聴こえてくる。
反射的にビクッと後ずさるマーサー。
―――目覚めよ……。
それでも一定の間隔で、その声は続いた。
念のためにとその扉付近を見回し裏側に回ったりしてみたが、その扉以外にあけっぴろげな出口らしい出口はなさそうで。
はてさてどうしたものかと。
その場に佇んでその声を聞いていると、だんだんとその声が聞き覚えのあるものに聞こえてきて。
気づけば何だか分からない物の恐怖心より好奇心のほうが勝っているマーサーがいて。
「……よし、ここまでお膳立てされてるわけだし、行ってみるか」
などといいつつまごまご、恐る恐る慎重に、マーサーは扉の奥へと入ってゆく。
扉の枠だけあって、反対側に出るだけだなんてオチもなく。
それでもその先ですら完全無欠な闇ではないらしく、徐々に慣れて輪郭ばかりが見えてきて。
洞窟めいた、しかし何も無い道を進んでいくと……。
唐突に、視界が開けた。
目の前には青空が広がっている。
それにより、覚醒。
やはり自分が仰向けに倒れていることに気づき、再びマーサーは辺りを見回した。
そこには。
たくさんの岩の塊、瓦礫ばかりがあって……。
(第8話につづく)
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